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Ⅷ.高めの花
そこから担当教師が来るまで、僕と志田さんは会話をした。
緊張したし、心臓も飛び出しそうに鼓を打っていたけれど、初めてクラスメイトの男女として同じステージに立てたと言うべきか、普通の会話をすることが出来たのだ。
出身中学のこと、弟のこと、ハマっていること。普通の友達と話すように、志田さんは話してくれた。テンションが高めなのはいつものことだけれど、今日は一段と元気な志田さんだったから、僕もそれにつられるように、ただの聞き役ではなく、自分の会話をすることが出来た。少なくとも、僕的には。
今日、やっぱりここへ来て良かった。
今ならば僕は志田さんを『高嶺の花』なんて言わない。『高めの花』くらいには、身近に感じられたから。
***
「――はい、じゃあ補習はここまでにします。志田さん、次回こそは補習にならないようにしてね!」
「はーい。てか! なんで私だけ名指し!?」
担当教師は志田さんの勢いにクスリと笑うと、一礼して教室から出て行った。
「ひどいよねー。納谷くんだって補習なのにさ」
「僕は、志田さんほど常連じゃないから」
「あ、納谷くんもひどいね。違うよ、その眼鏡がさ、納谷くんの真面目感を演出してるだけだって――」
そう言うと、納谷さんは僕の眼鏡を顔から引ったくった。
僕は突然のぼやけた視界に動揺する。
「――ちょ、志田さん!? 返してよ」
「え……納谷くんさ……コンタクトに、しないほうがいいよ」
「え? なに、どういうこと」
「いやあの、その、うーんとね、やっぱり納谷くんと眼鏡は一心同体だよ」
ちょっと口ごもりながら志田さんはそう言ったけれど、僕の目は、それがどんな顔から放たれた言葉なのか、正確に見ることが出来なかった。
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