第一章

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「始まりやがった…」  新入りが入った時の恒例行事、”新人いびり”。血気盛んなここの連中の考えた、腕試しという名目の乱闘騒ぎだ。  一対多数。大体新人がタコ殴りにあって終わる謎行事だが、今回の場合『襲う』の意味合いが常と違っている。 「蓮華たーん!キスしてー!」 「あぁ可愛い…っ。可愛いよぉ…!!」 「蓮華ちゃんは俺のもんだああああ!!」  鼻息荒く新入りに群がる野郎どもの光景は、ただただカオスでしかない。  そのカオスの真っただ中にいる新人は、重力を感じさせない身のこなしで組員の一人を足場に高く飛び上がった。そして襲い掛かってきた組員の顔面に容赦なく飛び蹴りを食らわせる。  間髪置かずに手に持っていたモップを巧みに使い、ばったばったと組員たちを返り討ちにしていく。その姿は舞の如く美しいものだった。  うつ伏せていた男が背中を踏みつけられ「あんっ♡」と歓喜のこもった声を上げる。周囲にはもう、陸翔を除いて立っている組員は一人もいなかった。その可憐な容貌からは想像もつかないほどの強さに、陸翔は内心冷や汗をかく。 「いやぁお見事!圧巻だったね~」  陽気な声と乾いた音が辺りに響いた。いつからいたのかボスが拍手をしながら歩み寄って来る。その後ろには呆れた様子の秀さんもいた。 「大丈夫だとは思ってたけど、これなら陸翔とペアを組ませても平気そうだね」 「まったく。うちの連中はなんでこう野蛮人ばかりなのか」 「でも丁度よかっただろう?これで蓮華くんが”東雲”の地位についても誰も文句は言わない」 「東雲?」  充と秀の会話に、蓮華が不可解そうな顔をする。その表情に今度は秀が眉間に皺を寄せ充を睨んだ。 「まさか、説明していないのか?」 「てへっ⭐︎忘れてた!」 「役立たずが、息絶えろ」 「そこまで⁉」  完全に闇属性になってしまっている秀はもう周りが見えていない。状況が分からず訝しむ蓮華に、陸翔は仕方なく説明役を買って出た。
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