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慣れない制服のネクタイを引っ張り、陸翔は舌打ちを漏らす。廊下を歩きながらいくつもの視線が自分へ、正確には自分たちへ向けられているのを感じ辟易した。
生まれ育った環境故に他人の気配や視線には敏感であるため、この場所はやたらと神経を消耗させられる。それらに悪意や殺気は感じられないが、だからこその鬱陶しさに陸翔は再度舌打ちした。
「北地区の学園で、何度も失踪事件が起きているらしい」
そう言ってことのあらましの書かれた資料を秀から渡される。
潜入捜査を命じられた後、陸翔と蓮華は説明を受けるため個室へと通されていた。
「北地区って、また凄いとこからの依頼っすね」
「それだけウチもデカくなってきたってことよっ」
自慢げに言い放つ充に、隣に腰かけた秀が冷たい視線を送る。【曇天】の管理はほぼ秀がこなしているようなものなので、『お前が偉そうに言うな』ということだろう。
「で、2人にはその元凶を突き止めて欲しいんだよね」
「でもなんでわざわざ生徒として潜入?もっと違うやり方あるでしょう」
「失踪しているのはいずれも学園の生徒たちだ。当事者になった方が何かと都合がいいでしょ?」
「…俺、19っすけど」
「1歳くらいなんでもないって~」
「……もしかしなくても、俺らが失踪事件の標的になればラッキーとか考えてます?」
「んー、まぁ簡単に言えばそうなるね!」
「「……」」
ザ・軽薄。
分かっていたことではあるが、あまりにもなボスに頭を抱えたくなる。
「蓮華くん、このクズの言葉は信用しない方がいいよ」
一周回って笑顔を浮かべる秀の忠告に、蓮華が真顔で頷く。それに充が反論する前に、秀は2枚のカードをテーブルの上に置いた。
「これが学園の学生証。制服も手配してあるし、入学の手続きも済ませてある。そこでの2人は北地区の一般階級で生まれ育ったってことになってるから、よろしくね」
「貴族連中相手に、よくすんなり事が進みましたね」
「向こう側からきた依頼だからね、多少の要求は呑んでもらったよ。まぁでも規制がどうのと煩いから、色々と根回しはしておいたけどね」
そう言ってにこりと笑みを浮かべる秀。北地区にまで伝手があるとは、彼の顔の広さは未知数だ。一体いつどこで繋がりを作っているのか、全くの謎である。
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