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この世界には稀に”異能”を操る人間が生まれてくる。
およそ50年ほど前から現れ始めた現象で、その歴は浅く、異能力者は人々に忌み嫌われ恐れられる存在だ。
そんなハグレ者の異能力者は、孤立した野良となる者と、同志で集い組織を形成する者の2つに分かれた。
彼らは一様にその力を生かし、異能力者に理解のある人間、もしくは同類から仕事を受ける。その影響力は徐々に増していき、異能力者らの集う組織は数・勢力共に拡大する傾向にあった。
そしてこの西地区にも1つ、該当する組織が存在する。
「陸翔~、その子だれ~?」
「まさかお持ち帰り?」
「きゃあ、やらし~」
すれ違う組員たちが冷やかしを入れてくる。
露出の多い服から覗くデカい胸を揺らして何がやらし~だ。仏頂面で「うるせぇ」と吐き捨てながら、陸翔は廊下を進んで行く。
随分前に廃墟となったホテルを改造したとかいうこの場所は組員たちの住処としても使われており、そのせいか皆ここを”ホーム”と呼ぶ。
少しすると開けた空間に出た。コンクリートが剥き出しの広間にはボロイソファや机など、簡素な家具があちこちに置かれている。仕事の打ち合わせをする者、駄弁っているだけの者と、していることは様々だ。
陸翔が足を踏み入れると、その腕の中の存在に気付いた連中がわらわらと群がってくる。
「わぁ、きれいな子」
「女の子……いや男の子?」
「陸翔、お前まさか…」
「えっちぃ」
「ちげぇ!つーか邪魔だテメェら!散れ!」
しっしっと虫か何かのように周りを追い払い、空いていたソファに少年を寝かせ、さてどうしたものかと思案する。
取り敢えずここまで運べばもう放っておいていいだろうか。いや、ここにいる連中も碌なのがいないし、またさっきみたいに群がられても面倒……
「陸翔」
「!?」
突然かけられた声に体がビクつく。
何とも情けない反応をとったことを恥じながら振り返ると、そこには見慣れた相手が立っていた。
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