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西地区に不釣り合いなほどカッチリ着こんだスーツ。癖のない藍色の髪の彼は、爽やかさと大人の色気が混在する顔立ちをしている。しかしその左目には縦一線に大きな傷跡があり、ただの優男ではない凄みを感じさせるのだ。
「しゅ、秀さん。どうしたんですか?」
「いや、ちょっと話があってね。……ん?その子は?」
彼の視線がソファで眠る美少年に向けられギクリとする。常日頃、人を罵って生きているような自分が、まさか親切心で拾ったなんて台詞吐けるわけがない。
「いや、そのー…」と口ごもりながら一歩後ずさると、背中に軽い衝撃と「うわぁっ」っと情けない声が上がった。
「……お前、いたのか」
「あ、す、すみません…!声をかけようと思ったんですけど…っ、秀さんとお話されていたので、その…っ」
あわあわと何度も頭を下げているひょろっちい男──小雨に溜息をつく。
亜麻色の髪は前髪が長くあまり顔が見えない。一目で虐げられる側だと分かるような言動をとり、何より影が薄い。知らぬ間に側(特に背後)にいることなどしょっちゅうで、毎度苛立つのも面倒になってくるほどだ。
「ほんと、用事とかも無いんですけど…。いやすみません、僕なんて何か用事がなきゃ関わる気になりませんよね。あはは、はは、は……」
「勝手に卑下して勝手に傷ついてんな!」
笑顔で自虐し、次にはズーンと落ち込み出す小雨に堪らずツッコむ。
つか秀さんなに笑ってんだよ。他人事だと思って気楽なものだ。
「それで秀さん、話ってなんすか」
無理やり話題を戻し尋ねると、彼は思い出したように頷いた。
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