第三章

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「蓮華?」 「!」  我に返る。声の方向へ視線を向ければ、陸翔が不思議そうにこちらの顔を覗き込んでいた。  至近距離で交わった瞳に、鼓動が跳ねる。 「……初めてだ」 「ん?」 「お前が、俺の名を呼んだの」  ぽかんとこちらを見つめていた陸翔は、たちまちその顔を赤らめる。耳まで赤くなるんだなと漫然と眺める。 「い、いつまでも新入り呼びじゃあれだろ。それに蓮華の方が呼びやすいし…っ」  おろおろと視線を彷徨わせながらああだこうだと言い訳をする陸翔。その姿が可笑しくて、自然と口元が緩んだ。 『お前はどうなんだ』  凛の言葉が蘇る。  あの時は結局、その問いに答えられなかった。そして、今も。  ──蓮華。  あの柔らかな声を思い出す。  自分に名を与えてくれた。初めてのものを、たくさんくれた。  誰よりも愛おしかった彼を。  いやだ。いやだ。思い出したくない。  何も、考えたくない。  蓮華は何かから逃れるように、振り払うように、瞼をきつく閉じた。
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