第三章

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「南地区の村で、このところ誘拐事件が頻発しているらしい」  手元の資料をめくりながら、秀さんが淡々と今回の任務について説明していく。  今日も今日とてスーツ姿が様になっている。大人の色気ってやつかな。僕が着たらきっと”服に着られる”という現象が起こるだろう。つくづくこの世は不平等だ。 「けっ。また誘拐事件かよ」  僕が勝手に落ち込みそうになっている中、共に説明を受けている陸翔さんがうんざりといった様子で悪態を吐く。隣には彼の東雲のパートナーである蓮華くんもいた。  会う度に思うが息を呑むような美人さんだ。すっかり【曇天】の中では高嶺の花のような存在になっており、隙あらば下心満載の組員が彼と接触を図ろうとしている。  そんな子とパートナーになって、陸翔さんは大丈夫なのだろうか。何分彼が蓮華くんをホームに連れて来た時以来絡みがないので、あまりふたりの関係性は掴めていない。  ホーム内の噂では、最近ふたりが任務外でも雑談などしている姿を目撃したという証言も増えており、以前のぎすぎすしていた頃と比べて幾分関係性は和らいでいるようだ。  そのせいで蓮華くん推しの組員たちの陸翔さんに対する殺気が高まっている気がする…。まぁ返り討ちにされるのがおちだけどね。仕方ないよ、相手が悪い。 「陸翔も知っているだろう。この世界じゃ人間は”資源”、金の元だからな」  陸翔さんの悪態に秀さんは残酷な、けれど事実を無機質に告げる。実際この【曇天】の組員の中にも、元奴隷の人間も少なくはない。異能力者は奴隷としては労働力にも見世物にもなる、格好の餌なのだ。 「ところが、今回は少し様子が違うみたいでね」  そう切り出した秀さんは、ここからが本題だと資料をテーブルに置いた。 「誘拐されるのはみな十代半ばの子供たち。その犯行理由は、どうやら商売ではないらしい」 「……というと?」 「攫われた子供たちの何人かは、行方不明になった数日後に発見されているんだ。ただし死体となって、だけどね」  胸の内側が冷たくなる。殺人はこの世界じゃ日常茶飯事だが、当然気分のいいものではない。東雲のふたりも同様なのか、纏う空気が張り詰めたのが伺えた。 「未だに行方不明の子供たちは皆、見目麗しい美男美女らしい。そして彼らがどこかで売り捌かれた形跡もない」  組み合わさっていくピースにひとつの考えが浮かんだ。口に出すのも避けたいような、穢れた私利私欲の成れの果て。 「下調べは粗方こちらの方で済ませている。君たちには迅速にその処理をお願いしたい」
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