第三章

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「解せねぇ」 「あ、あははは…」  片田舎の砂利道に立ち心底不服そうに悪態を吐く陸翔に、小雨は乾いた笑いを零した。  今回依頼のあった村が田舎も田舎な為、列車から降りて目的地までかなりの距離があるにも関わらず移動手段が徒歩しかない。  幸い田舎道にはちらほら車が走っているのを見かけたので、現在はヒッチハイクを試みていた。しかし陸翔と小雨がいくら親指を立てようとも、一向に車は捕まらない。かれこれもう数十分、無慈悲に通り過ぎていく車に陸翔は耐えかねていた。 「つーか…ッ。テメェは何してんだ蓮華ぇ!」  いつの間にか農道脇の原っぱでぽかぽかと日向ぼっこをしながら優雅に昼寝を決め込む蓮華に陸翔が吼える。すぅすぅと眠る愛らしい蓮華を憎らし気に見下ろした陸翔は、そこではたと思い至った。  そもそも自分がこんなことをする必要などない。物事には適材適所というもがある。 「おい起きろ!」 「ん…。飯か?」 「テメェは俺のペットか!ヒッチハイク、お前だけでやってこい」  強面な男の自分がやるより、容姿だけなら綺麗で無害そうな蓮華がやった方が効率がいいだろう。うちの組員のように、下心で停まる男どもがいるはずだ。  陸翔の指示に、蓮華は心底不満そうな表情を浮かべた。 「は?なんで俺が」 「いいからこっち来い。お前はただ、ここに突っ立ってりゃいい」  題して、美少年囮作戦。未だ不服そうな蓮華を路肩に押しやり、陸翔と小雨は身を潜めることにする。草むらへと連れて来られた小雨は、困惑気に陸翔と蓮華を交互に見遣った。 「あの、陸翔さん…。これは止めておいた方が…」 「あ?んでだよ。いいからお前もかがめ」  何故か渋っている小雨の頭を抑え込み茂みに隠れる。それから少しして近づいてきた一台のピックアップトラックが、親指を立てる蓮華を確認し減速した。運転席に男二人、荷台に男二人、下心満載のトラックだ。  こちらの数十分の苦労を僅か数分で台無しにしてくれた蓮華に、陸翔は溜息を吐いた。まったくこの世界はつくづく残酷である。  何にしてもこれで日が暮れるまでには村に辿り着けそうだ。あとは自分たちが後からのこのこ現れても許してくれるかが問題だが…と、陸翔は身を起こす。  その瞬間、トラックの荷台から男が腕を蓮華の腰に回したかと思うと、荷台に放り投げるように救い上げ、そのまま車はスピードを上げた。 「……は?」  あっという間に陸翔たちの前で、蓮華が誘拐された。
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