第三章

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「はぁあ⁉ちょっと待て!」  ほんの一瞬の出来事だった。咄嗟に何が起こったのか分からず呆然とした陸翔だったが、次には我に返り慌てて車を追いかける。タイヤを狙って電撃を放つが、射程距離にも限度があった。既にそれなりの距離が開いた状態では、当たるどころか届きもしない。 「クソ…ッ」  見る間に小さくなっていくトラックに、陸翔は悪態を吐いた。一体相手は何処の誰なのか。何故いきなり蓮華を攫った? 「恐らくあれが、例の誘拐事件の連中ですね」 「……は?」 「え、これ作戦じゃなかったんですか?蓮華くんなんて今回誘拐されてる子供たちに条件ドンピシャじゃないですか。それなのに一人残して囮みたいなことするからてっきり…」 「あーうるせぇ!悪かったな!全部能無しの俺のせいだよ!」  こんな時だけやたら饒舌な小雨に苛つくが、生憎反論の余地がない。  しかしどうしたものか。完全に先ほどのトラックは見失ってしまっている。 「はぁ…。蓮華に発信器でも付けときゃよかったぜ」 「付いてますよ」 「あぁそうだな。……って、え?」 「発信器。さっき蓮華くんに渡しておきました」 「マジか…。よくそんなもん持ってたな」 「秀さんから頂いたんです。この前武器とかを仕入れてるお得意様から譲り受けたらしくて。使う機会があればって」  流石は秀さん。用意周到すぎる。それに発信器なんて大層なものをよく仕入れられたものだ。顔が広く色々な伝手がある彼だからこそ可能な芸当だ。  それに小雨も。ただ影の薄い奴じゃなかったようだ。少し見直した。伊達に【曇天】の西雲を名乗っていない。  何はともあれ、これなら敵のアジトを突き止めたも同然。このまま本陣に乗り込むまでだ。 「よし、とっと跡を追うぞ」 「はい!でもあの、移動初段が…」 「……」
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