残酷なこの世界で、

第三章

　ガタガタと揺れる振動で蓮華は目を覚ました。
　視界は何かで塞がれているのか薄暗い。それと何か薄っぺらいものが体に覆いかぶさっている感覚。起き上がろうとすると両手を後ろに縛られていた。口も何かで塞がれているようだ。

（どうしてこうなった…）

　やけにぼんやりとする頭で徐々に事の経緯を辿っていく。
　確か目的地までの移動手段を確保する為ヒッチハイクをしていて、一台のトラックを停めようとしたら突然体が宙に浮いたのだ。次には口元に布を押し付けられ、意識が遠のいていって…。

（なるほど。俺は誘拐されたのか）

　ということは今回の事件と関連があると思っていいだろう。だとすればある意味好都合かもしれない。
　一人で敵組織を壊滅させるのは、咲夜じゃあるまいし不可能だろうが、情報を持ち帰るくらいはできそうだ。なんならアジトまで運んで行ってくれれば御の字。
　すると車が一度大きく揺れ、停止した。次には数名の動く音。連れ去られる前に確認した限りでは、恐らく四人。
　体に被せられていたものが取り払われると、腕を掴まれ引き上げられた。

「ほら、さっさと歩け」
「おいっ、雑に扱うな。傷ができたら使えなくなる」

　少し引っ張ったくらいでこれとは、随分な厚待この様子かするに自分は売り物なのか。しかし人身売買の情報はないというし、何か傷をつけられない理由があるのかもしれない。
　視界は未だ閉ざされているまま何処かへと連れていかれる。頭の中で歩数を数えながら、視覚以外でできる限りの情報を探った。
　足元が地面から木製の床へと変化する。何かの建物に入ったのだろう。誰かとすれ違う度交わされる挨拶。やはり相手は個人ではなく、組織で行動しているとみられる。
　やがて扉の開く重い音がして、真っ暗な視界に光が差し込む。
　靴音が響く。広い空間にでたのだ。数人の人の気配。それらから向けられる視線が不快に思えて唇を噛む。

「女……いや、男か？」
「はい、かなりの上物です」

　目隠しと口を塞ぐ布が取られ、暗闇に慣れた目を細める。
　伸びてきた手に顎を掴まれ顔を上げさせられた。ようやく馴染んできた視界の先、目の前には若い男がこちらを食い入るように見つめていた。