第三章

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 頭の次は手を握られた。いつの間にかこちらと目線を合わせるように中腰になっていた男が体を起こし歩き出す。 「ぼく、こっちへおいで。甘いお菓子をあげよう」 「わーい。お菓子好きー」  俺は幼児か、と内心でツッコミながらも話を合わせる。若干返事が棒読みになってしまったのはご愛嬌だ。  男が鼻息荒く何かを呟く。小声で「ショタぁ…」と聞こえた。  周りにいた大人たちはついてこなかった。やはりこの男は他よりも立場が上らしい。 「司祭様。その者は次の儀式で?」 「ええ、また声を掛けます」 「かしこまりました」  司祭か。また大層な呼び名だ。  手を取られ連れていかれたのは、広間を出た先の突き当りの部屋だった。見るからに豪勢な内装に、一体何処から金が出てきたのかと疑問に思う。商売はしていないというが、人身売買とはまた別の稼ぎ方があるのかもしれない。  司祭に促され、質のいいソファに腰かける。ふかふかすぎて体が沈みきょとんとする蓮華を、司祭は微笑ましそうに見つめた。 「ショ……坊や、お名前は?」 「蓮華」 「蓮華くん、か。第六エリアのにも一部で咲く花だね。ただ泥の中で咲く花だから、可憐な君と比べると少し強かすぎるかな」  そうして司祭はペラペラと喋りながら、皿に並べたクッキーを目の前のテーブルに置く。甘いものは特別好きではないが、顔には笑みを張り付けてクッキーを口に含んだ。 「どう?美味しいかい?」 「おいひぃ」 「ショッタァ…!」 「……」  さっきから定期的にうるさいのだが、こいつの鳴き声か何かなのか?  よく分からないので、とりあえず無視をしておく。 「ねぇ、ここには僕意外にも子供はいるの?」 「ああいるよ。近いうちに会わせてあげよう」  隣に腰かけた司祭がするりと太腿に触れてくる。不快感で一瞬動きが止まったが、ここでこいつをどうこうするわけにもいかないので黙々とクッキーを食べるに徹した。 「さっき言ってた儀式って、子供なら誰でもできるの?」 「いや、受けるには簡単な検査が必要なんだ。君は一つ目の検査には合格した。それから二つ目の検査だ。まあ君ならある程度は譲歩するつもりだけどね」  一体なんのことかと訝しく思っていると、司祭は立ち上がり先ほど入ってきた扉を開いた。  するといつの間にいたのか、待機していた中年の男へと声をかける。頷いた男がちらりと此方を見遣り、笑みを浮かべた。その視線にどこか既視感を覚え、蓮華は体を強張らせる。  全身がこれ以上は危険だと警告するが、すぐに増援を呼ぶこともできない現状、今逃げ出せば相手に猶予を与えることになる。そうすれば逃げた蓮華が通報することを恐れ逃亡するだろう。司祭などは真っ先に姿を眩ますはずだ。  そんな真似はさせない。してはいけない。一人残らず捕まえる。  だから今は、ここで耐えなければならない。 「こっちへおいで蓮華くん。今話した二つ目の検査だ」
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