第三章

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 現在陸翔と小雨は先ほどのようにヒッチハイクを試みていたが、案の定一台の車も停まるどころか減速すらしない状況だった。 「あーッ、こうなったら構ってられねぇ!無理やり車確保するぞ!」 「そう、ですね…。後で秀さんにどやされるのは怖いですけど、仕方ありません!」  誘拐された子供の一部は遺体で発見されているが、見目麗しい者は生かされいる……と予想される。蓮華の容姿を考えれば今すぐに殺されることはないだろう。しかし、安全とは到底言い難い。 「あっ、来ました!」  声を上げた小雨に我に返る。  どうやら動揺しているようだ。落ち着けと自分に言い聞かせるように、拳で胸を叩く。  そう、自分は動揺している。何故だろうか。蓮華が攫われたから? 『初めてだ。お前が、俺の名前を呼んだの』  何故か数日前の記憶が蘇った。あの時あいつは、いつもの冷めた表情を忘れ。年相応の無防備な顔をしていた。どこかあどけなく。そして悲し気な瞳に、一瞬息が詰まった。  分厚く覆い隠された内側。蓮華の根幹に触れてしまったような気がしたのだ。  それは今にも消えそうな儚く不安定なもので、しかしそれが蓮華の本来の姿なのだと悟った。  こんな世界では覆い隠し、偽らなければならなかった、清純な心。 「ばっきゃろー!危ねぇじゃねーか!」  クラクションと共に親父の怒声が聞こえる。無理やり車の前に割り込んだ小雨に慌てて急停止したようだ。こいつはいつもおどおどしているくせに、途端に大胆になることがある。 「おっちゃん!その車乗せてくれ!」  声を上げ、陸翔は車に走り寄る。  とにかく急がなくては。  頭に浮かぶのはずっと、あの儚く脆い蓮華の姿だった。
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