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「な…っ」
後ろを見れば、冷え切った瞳と視線が交わる。
殺気の籠った目など見慣れているが、その美しい顔立ち故か妙な迫力があった。
一体何処に忍ばせていたのか、喉元に突きつけられている刃渡り15㎝ほどのナイフ。
いくら油断していたとはいえ、簡単に隙を突かれるほど愚図ではない。
それを、こうもあっさりと…。なんなんだコイツ…ッ。
「はいはーい、ストップストップー」
反撃すべく指先に力を込めたその時、場に不釣り合いな気の抜けた声が響いた。
やって来た人物に、秀の纏う空気がピりつくのが分かる。
後ろで1つに縛られた黄金色の髪にエメラルドの瞳。一見何処ぞの貴公子のような見た目の彼だが、その胡散臭い笑みが全て台無しにしている。
「充お前、一体何処で油を売っていた」
冷え切った声で尋ねる秀に、【曇天】のボスである彼──充は臆した様子もなくヘラヘラと笑った。
「酷いなぁ、秀。俺はちゃんと仕事してたよ?」
「ならその仕事として連れてくるはずだった新入りは?」
秀の問いに、充は笑顔である場所を指さす。
その先には陸翔……ではなく、陸翔の背後で刃物を突き付ける美少年。
「紹介しまーす!新入りの蓮華くんでーす!」
「……は?」
「いやー驚いたよ。待ち合わせ場所にいないと思ったら、まさかもうホームに来てただなんて!」
「つまり見つけられなかったからノコノコと帰って来たのかお前は」
「というわけだから蓮華くん!ここは君のホームとなる場所だ!安心してくれたまえ!」
「はぐらかすな愚図」
更に闇が深くなる秀に小雨が戸惑う中、陸翔は再び背後を見遣る。
充の言葉に無言でナイフを下ろした少年──蓮華は、興味を失ったというように顔を逸らす。そのあまりにも素っ気ない態度に、陸翔は頬を引き攣らせた。
ちょっと待てよ。コイツが今日から入る新人ってことは…。
「あの、さっきの秀さんの話だと、つまり…」
「あ、もう秀から話聞いてる?そう!その子が陸翔の新しい相棒でっす!」
満面の笑みで親指を立てるボスに殺意が湧いた自分は、決して間違ってはいない。そう、絶対に。
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