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「ねえ、私の事、覚えてないん?」
加奈子は線香花火から目を離さずつぶやいた。
「えっと・・」
言葉に詰まった。
はっきり言って全く覚えていなかった。
加奈子はちょっと笑って言った。
「中学3年の時、同じクラスになったやん。
麗奈は私の後ろの席やったよ。
たいして仲良くした覚えもなかったのに、麗奈は私に言ったよな。
”あんた不細工やな"
"学校に来んといて"
"バケモンは消え失せろ"
私の大事なハンカチを雑巾にしたよな。
私の大事な鞄に牛乳入れたよな。
私の大事な友達をみんな取っていったよな」
だんだんと、加奈子の声が大きくなる。
心臓がきゅっと苦しくなった。
中学3年。
そうだ。思い出した。
やたらと可愛い加奈子に無性に腹がたった。
誰にでも優しくて人気があって、私の好きな男の子に好かれていた。
自分が何もできない気がして腹がたった。
毎日、毎日加奈子に罵声を浴びせることで気持ちがおさまったあの頃。
「あ、あの時は・・・」
ドキドキした。
自分がとても小さくて貧弱で情けない気がした。
あの頃のように。
「でも・・」と言おうとして言葉を失った。
加奈子は小さな声で静かに話しを続けた。
「学校行けなくなったんよ。何も考えられなくなったんよ。
高校も行ってへんよ。私、海に消えてしもたんよ。
そんなことも知らんかったんやね」
すっかり忘れていた。
どうしよう。
謝るべき。でも、なんて言う。
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