私が悪いのですか?②

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私が悪いのですか?②

王命に従って嫁いだ先は没落寸前の伯爵家。 相手には最愛の婚約者がいたが、私にだって幼い頃からずっと大好きな三つ上の婚約者がいた。 なのになぜ、こんな暴論な王命が出されたかと言うと、王の娘が私の婚約者を見初めてしまったからだ。 娘を溺愛する王は娘の恋を叶えてやりたかったのだろう。 その対価として、とばっちりを食らう私達に甚大な被害が出る事が抜け落ちてしまうくらいに。 私の元婚約者は王族を警護する近衛騎士。 まだまだ下っぱで、王族の傍に侍る事など出来ない立場だったけど、その容姿は他の誰よりも飛び抜けて良かった。 それが災いとなったのか、いや、元婚約者からすれば幸いだっただろう。 遠目のチラ見だろうが一瞬だろうが、美貌と名高い高貴な血筋の王女の目を奪えたのだから。 好きだったのは私だけ。 元婚約者は婚約者として儀礼的な付き合いはしてくれたけど、私のことを愛しているわけではなかった。 暴論な婚約解消をサクッと受け入れたのも、王女との婚姻で何の成果も出していないのに飛び級も飛び級、しがない男爵から侯爵の地位を賜る事が確定した時、私や私の家族にまでわざわざ知らせに来たくらいだ。 顔は良いけど性格に難がある。 知っていたけど、その難を補える抜群の容姿に婚約者時代は目を瞑れたが、解消した今となってはただの無神経なクズに過ぎなかった。 まぁ、そんなこんなで、話した事もない顔見知り程度な伯爵家嫡男の妻になったわけだが。 こいつも性格に難がありまくりである。 妻になったからと言って愛されると思うな。 俺の愛はルナに捧げているんだ。 王命だから結婚したがお前なんかを抱くつもりはない。愛してないのに子作りなど出来るか気持ち悪い。 いきなり婚姻が決定したため式もなく、交流もなく、贈り物もなく、手紙の返事すら寄越さず、周囲からの祝福も勿論ないが、当事者たる彼が嫌々感丸出しで渋々婚姻書類に署名した時から知っていたけれど。 緊張でガチガチに固まっている初夜にまで、酷い暴言を投げつけられるのは想定以上のことだった。 挙げ句の果てに、 何だその娼婦みたいな夜着は。 恥じらいもない淫売など穢らわしい。 盛大に顔を顰めて、さも私が男を取っ替え引っ換えしている阿婆擦れで、その阿婆擦れが俺を誘惑している! と言わんばかりだ。 性格に難があるどころじゃなかった。 無理やり最愛の婚約者と引き裂かれて辛いのは分かるけど、私に当たり散らされても困る。 悪いのは私じゃない。 夫と同じ被害者だ。 なのに目が曇っているのか、頭が沸いているのか、あまりの悲劇に精神が異常を起したのか、元からそうなのか、勝手な思い込みと捻じ曲がった解釈で私を悪にしている。 これはもうダメだ。 手の施しようがない。 悪の私が何を言っても何をしても夫には響かない。余計に悪化する未来しか見えなかった。 なんでこんな事になったんだろう。 完璧な容姿に目が眩み元婚約者を選んでしまったから? それとも婚約者だった事で王女から要らぬ恨みを買ってしまったから? この婚姻は王女の推薦だと聞いた。 もしかしたら私だけじゃなく、婚約解消を命令された没落伯爵家嫡男の夫や、夫の元婚約者だった令嬢が、知らぬところで王女の怒りを買っていた可能性もあるけれど。 複合的な要素が重なり合った結果だとしたら、あまりにも私に皺寄せが来すぎている。 酷い運命だ。 最低な人生だ。 と、嘆くのはここまで。 思い切り泣いたら立ち上がろう。 腸が煮え繰り返る怒りをバネにして。 知っていますか? 愛は憎しみと表裏一体。 私をあっさり捨てた元婚約者。 娘可愛さに王命を出した無能な王。 手段を選ばず略奪したワガママ王女。 狂った思考の異常者たる名ばかりな夫。 こんなことになる前までは愛していた。 尊敬していた。 敬意を払っていた。 経緯はどうあれ歩み寄ろうと考えていた。 その全てを踏み躙った相手に鉄槌を。 夫曰く、私は淫売であり阿婆擦れだ。 ならば、その通りに振る舞っても何の問題もないだろう。 夫以外でマトモな評価を下せる人達の視線は気になるが、良い子な淑女だったのに辿り着いた結果がこの有様では、マトモな評価など合ってないものだ。 上が間違うと下が被害を被る。 私の人生に起きた間違いは正さねばならない。 他の被害者が出る前に。 幸い嫁いだ先は金のない没落伯爵家。 茶会など出来ないし、繋がる旨味もないので他貴族からの招待状も来ない。 金の嵩張るドレスや宝飾は必要なかった。 まぁ、それ以前に王女に睨まれたも同然な私に、関わりたい貴族はいないけど。 無駄金を使わないから、ここぞ言う時にささやかながら蓄えが出来た。没落でも貴族は貴族。王家主催の夜会は出席を義務づけられている。 狙いはここだ。 王の次に身分が高い人。 王も無下には出来ないし王女でも簡単に籠絡出来ない相手。 次期王様確定の王太子殿下に、夫そっちのけで媚びて媚びて媚びまくる。 並いる高位令嬢も何のその。 妻がいたって側妃や愛妾候補は群がってくる。 熾烈な駆け引きやイジメにも負けず、逆にぐうの音も出ないほど叩きのめしてやった。 憎悪は無双。 死ぬ気になれば何でも出来る。 守る矜持もない、底まで落とされた私に敵う令嬢はいなかった。 せっせせっせと敵を蹴散らし、短い機会を有効活用出来るよう王太子殿下好みの女を演じる。 そうやって距離を縮めつつ、男が喜ぶような手練手管を本の知識で手に入れるのも忘れない。 血と汗と拳と涙。 念入りな下調べによる寝不足と、怒りのパワーを原動力に努力を重ねた結果、王太子殿下の隣りに侍る権利をもぎ取った。 寵愛を確信した時、寝所で王太子殿下の耳に囁いた。緩やかな誘導。復讐の始まり。 手始めは異常者夫を僻地に飛ばしてやった。 夜着にかけたわけじゃないけれど、野生のヤギが作物を食い荒らす獣害に悩む僻地に、対策本部長という名誉 ( 迷誉 ) ある職を押し付けて。 今までしていた領地の仕事に全く関係のないことだが、私の知ったことではない。 せいぜい励 ( ハゲ ) むといいけれど。 お次は王様だ。 年齢的にも健康面にも問題はないが、いかんせん脳みそが故障している。 とち狂った判断を下したトップは、国のためにも私のためにもとっとと隠居してくれ。 台風が来ると必ず浸水するし窓は吹っ飛ぶけれど、景色は最高に良い南国の離宮を用意しました。低予算で建築を急がしたので補強が心許ないけれど、運が良ければ枠組みくらいは残るはず。命があることを願っていますね。 では、お待ちかねです。 有終の美を飾る大トリの出番です。 せっかく侯爵になったところ悪いけど、小さな失敗を血眼になって探しました。 重箱の隅をつつく取るに足らない失敗ですが、トップが問題視すれば1が万倍になるのです。 領地没収のうえ子爵に降格。 男爵にしなかったのは温情……いえいえまさか。 最下位貴族にしたら納める税も少ないので、領地収入を遮断しても痛手があまりないかと思いまして。 子爵なら明日のパンにも事欠くかもしれませんが、爵位を返上したら生きていけるでしょう。 ああ、兄たる国王に泣きついても無駄ですよ。 離縁も認めません。 彼は父に甘やかされていた妹が好きではないようなので。残念でした。 元婚約者のよしみで言いますが、貴方が平民になった暁には職を斡旋致しましょう。 その容姿ですもの。 男娼になれば売れっ子間違いなしです。 え、嫌ですって? なら王女様はどうですか? 夫婦ですもの。 助け合うのは当然かと思いますわ。 略奪するほど好きな夫の為に、その美貌を活かして他の殿方を籠絡してみてはいかがです? 東方の島国ではそれをパパ活と呼ぶそうですよ。 ええ? 嫌、ですか。 じゃあ仕方ありませんね。 ですが、もし困ったらいつでも頼って下さいませ。喜んでお力添えしますわ。
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