3人が本棚に入れています
本棚に追加
「あっぢぃ~。クーラーつけてぇ」
「ダメ。また電気代上がったんだから」
「母ちゃんみてえなこと言うなよぉ」
彼は下敷きを団扇代わりに扇ぐ。
私は氷をたっぷり入れたレモンティーを、紙ストローでチュウチュウ吸った。
太陽はとっくに沈んだ。夜の帳が下りるのもすっかり早くなった気がする。
「紙ストローって、飲みづらそうだよな」
「でも環境のためって言われちゃ逆らえないでしょ。世の中SDGsよ」
「なにそれ、アイドルグループ?」
「はあ……」
その時、ピロンと軽快な音がして私のスマホ画面が光った。
「なになにぃ?」
「……アヤカ。今夜肝試しに行かないかって。この間断ったのに」
「行きゃあいいじゃん」
「行くわけないでしょ。幽霊なんて出るわけないんだから」
「ほへぇ」
彼は興味なさげに鳴いた。夏休みの宿題を一緒にやろうって言ったのはそっちのくせに。彼は溶けかけのアイスみたいにダランと机に突っ伏すだけだ。
手つかずのレモンティーの氷がカランと鳴る。
本棚に並べられた漫画本の中にお宝を見つけると、彼の瞳に光が宿った。
「あ、最新刊出てんじゃん! あの作者全然続き描かねぇんだもん、待ちくたびれたよ」
「ああ、それ。読んでいいわよ」
「なあなあ、ちなみにどのキャラが好き? やっぱ主人公?」
「さあ、ちゃんと読んでないから」
「読めよ!? マジ泣けるぞ!? んじゃ次までに感想文な、原稿用紙で三十枚分!」
「はいはい」
「約束だかんな!」
彼はニッシッシと子どもっぽく笑った。
実際子どもなんだから当然か。
最初のコメントを投稿しよう!