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鳴り止まぬ砲撃の残響が聞こえる中、大佐の後に続いて静謐とした回廊をひた歩く。
前線基地の核とも呼ぶべき作戦本部のあるその場所はその昔スペンヒル領主の邸宅として使われていた建物であった。
その造りには威厳と気品があり、故にうっかりすると戦地であることを忘れそうだった。
「失礼します。ヴォクシス・ハインブリッツ大佐、及びカルディナ・シャンティス少佐、入室します」
ダークウッドの扉の前、ノックの後に大佐が慣れた口調で来訪を告げる。
「どうぞ」
中から返って来たその声は歳を召した女性のものだった。
入室を許可する返事に続き、徐ろに中からドアが開く。
大佐に続くようにセルシオンを抱えて一礼と敬礼を行い、立ち入った師団長執務室の奥―――、趣ある書斎机の前に腰掛けていたのは、シルビア王女よりも上の世代と思われる銀髪が凛々しい女傑であった。
「よく来てくれました。貴殿がシャンティス少佐ですね?」
掛けていた眼鏡を外し、この基地のトップである第八師団長スペンシア少将は杖を片手に腰を上げる。
気品ある声色とその身が纏う覇気にカルディナは思わずカーテシーの姿勢を取った。
(…って、いけない!ここ前線基地!)
己に言い聞かせて慌てて姿勢を正し、キリリと敬礼した。
「スペンシア少将閣下、お初にお目に掛かります!第八〇六特務機動連隊所属カルディナ・シャンティスと申します!」
気を取り直して、声高らかに噛まずに言い切ることが出来た。
どうにか誤魔化せたかに思えたが―――。
「やはり学生さんは緊張するが当たり前ですね…。ここでの振る舞いは軍規に従って頂戴。そうすれば間違いはないでしょう」
どうやらバレていた模様である。
痛恨のミスにじわじわと頬を赤らめつつ、恥ずかしさをひた隠した。
「まあ、戦前まではこのスペンヒル領の名誉知事であったのも事実。淑女教育中とあっては余計に混乱するわね…」
そんなフォローが有り難い反面、恥ずかしさは倍増である。
少将は古くから名だたる将校を輩出してきた名家スペンシア伯爵家の当主でもあり、家柄故に若くして軍門を叩き、かつては協定を結ぶ国々をその手腕で強固に守り抜いた実力者だ。
帝国との戦争が始まってからは、この基地を一時も離れることなく偉大な国家を守り続け、彼女が前線で指揮を取っているからこそ、王国は帝国の侵略をここまでで抑えられていると言っても過言ではない。
その認識が無意識に所作に働いてしまったようである。
「早速だけど貴女が抱えているその竜について、いくつか確認したいことがあるわ。席に掛けて貰えるかしら?」
単刀直入な話題に気持ちを切り替えた。
ここは戦争の最前線。
細かいことを恥じている場合ではなかった。
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