飛行訓練

2/2
前へ
/142ページ
次へ
 昼時となり、優雅に草原に降り立ったセルシオンに機動小隊の皆が駆け寄る。  コックピットの窓が開かれると共に、カルディナは枠の金具を利用して心太(ところてん)の如くするんと外に飛び出した。 「お疲れ。今日は酔っ払ってない?」  ゴーグルと飛行帽を外して間もなく、煙草片手に訊ねた大佐にカルディナは溜息を零した。  一週間前、機械竜による飛行訓練に向けて空での感覚を掴むべく挑戦した戦闘機操縦で、過度な重力に身体がついて行かず着陸と同時に盛大に吐き戻したことがあった。  あまりの吐きっぷりに今では小隊内で笑い話になっているが、大佐にはその時の光景が強烈だったようで訓練を終える度に気遣われるようになった。 「流石に慣れましたよ。それより前線派遣の件、決まりました?」 「後は日程調整だけ。行けそうかい?」 「日にち合わせて貰えば、それに従うのみです」  そんな会話をしつつ、皆で腹拵えへと急いだ。 「そう言えば、奪還作戦に向けてそろそろ小隊から名称変えろって上から打診が来たよ」 「あー、やっぱり…」  食堂のテラス席にてボロネーゼパスタを頂きつつ、大佐の話にカルディナは苦笑い。  前々から隊員の有能さとそれぞれの階級の高さに、名称と部隊員の分け方が合っていないとは思っていた。  聞けば機密情報の漏洩防止と敵側への情報撹乱を目的として、魂授結晶の性能が正確に解るまでは部隊規模を指揮官やパイロットの人数と編成初期時点の保有装備のみで数えて過小に称していたとのことである。 「取り敢えず、前線の第八師団に合流と同時に名称は変更予定。参謀本部とは兵と下士官を大幅に増員して連隊にしようと検討してる」 「連隊?大隊ではなくですか?」  パスタを頬張りつつ、カルディナは疑問を呈した。  今後予定している奪還作戦こと【王国東方領土奪還作戦】では、機械竜を主戦力として敵方軍勢の殲滅及び各所帝国駐屯地の制圧を主な目的としている。  投入する人員と装備としては大隊程度と聞いていたし、カルディナ自身もそのくらいだろうと踏んでいたのだが―――。 「戦車やら新型戦闘機を融通してもらうに管理面でその分の人数を増やさざるを得なくてね…。取り敢えず、第八師団に勤務してた時に僕が受け持ってた連中を丸々貰うつもり」 「では、今在籍している隊員の下にどんと下士官や兵が付く感じですか?」 「そんな感じだね。皆には配属前にその旨は伝えていたから内心では派遣と同時に指揮官になることを覚悟してると思う。カルディナもそういう講座受けたでしょ?」 「ええ、まあ…」  何となく言葉を濁したのは、これまでの軍事訓練の合間に士官学校でやるような上級士官向けの講座が開かれていた為である。  何故に一介のエンジニアである自分も受けさせられているのだろうと疑問に思っていたが、そんな大佐の言葉で納得した。 「あの…それらって機械竜の後援部隊ってことですよね?」 「大体はそうだよ?」  あっさりと帰ってきた返答に、彼女はフォークを持ったまま皺を寄せた眉間に手を当てた。  今後、機動小隊が連隊となれば千人余りが所属する大規模部隊となる。  己の少佐という肩書から推測しても恐ろしく責任は重大であった。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加