東方前線へ

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東方前線へ

 重たい大きなバックパックを座席代わりに、膝の上には小型竜姿のセルシオンを抱え、軍用車両に揺られながら場違いなほど青い空と立派な入道雲を眺める。  これより向かうのはサニアス帝国との国境に位置していたが故、およそ二十年に渡って占領され続ける都市ベインベイ、ビスローク、フォンデ、そして大佐の故郷でもあるモティ村の三都市一村を眼前に望むスペンヒル領の前線基地である。  大昔から存在する城跡を利用した前線基地は一帯に広がる丘陵の上にあり、そこを起点に現在、南北に築かれた連峰のような巨大な防壁に囲われ、三都市一村は分断されている。  王国陸軍第八師団率いる前線部隊はそんな場所を拠点に、およそ一万五千人の軍人が今日この時も命掛けのせめぎ合いをしていた。 「セルシオン、頑張ろうね…」  見え始めた前線基地とその向こうに立ち上るいくつもの黒煙に、相棒を抱きしめる手に力が込もる。  押し寄せる緊張と恐怖に、確かに震える指先を押さえつけた。  戦前までこの土地はウインタースポーツを楽しめる観光地として名を馳せたと言うが、その影は最早無い。  基地が近付くに連れ、森は次第に荒れた林となり、気付けば瓦礫と何かの鉄塊、そして石を据えただけの夥しい粗末な墓地に姿を変えて行った。  すれ違う軍用車両には悲惨な包帯姿の兵士が項垂れ、風に乗って言い表し難い悪臭が微かに鼻を衝いた。  よく晴れた晩夏のその日、十五歳の誕生日を半月後に控えたカルディナは遂に戦地へと足を踏み入れた。
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