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地獄の前の一休み
少将閣下への挨拶に続けて、明日からの奪還作戦に向けた作戦会議を終えたのは夕方の五時頃だった。
腹拵えの前に一旦、官舎に戻ろうとしたカルディナはそこで初めて騒ぎが起きていたことを知った。
「シャンティス少佐!ご無事でしたか!」
安堵の様子で駆け寄る見知った士官に敬礼しつつ何の騒ぎかと訊ねた。
聞けば、数ヶ月前に地方から派遣されて半月も経たずに行方不明となり死亡扱いになっていた士官がカルディナの部屋で発見されたらしい。
防犯に置いていた蝶に襲われていたらしく、その物音で隣接する部屋の士官が確保したとのことだ。
取り敢えず事情聴取もあって部屋には戻ったが、侵入した士官が逃げ回ったのか部屋はぐちゃぐちゃ。荷解きをしていなかった事が幸いして私物に関しては無事だったが備え付けの家具は壊され、家電も使えそうになかった。
(今晩、何処で寝よう…)
取り敢えずとして今日の寝床を失い、どうしたものかと考えていた時だった。
「カルディナ、無事か⁉」
血相を変えて彼女の下に駆け付けたのは大佐だった。
彼も騒ぎを聞きつけ、心配したらしい。
「無事で良かった。一先ず、他の部屋の準備が整うまで私の部屋で待機しなさい。モーヴ中尉が護衛する」
そんな指示と共に大佐の後ろに控えていたモーヴ中尉は部屋にあったカルディナの荷物を担ぎ上げた。
「あ、あの、そんな大層な…」
恐縮するカルディナに対し、大佐は怖いくらいの真剣な眼差しで指示に従えと促した。
「…見つかった士官は島の元駐屯兵だった。他に居ないとも限らない。警戒しなさい」
添えられた一言に、どきりとした。
真っ先に頭を過ぎったのは逆恨みという言葉だった。
「少佐、行きましょう」
考えを纏める間もなくモーヴ中尉が背中を押す。
調査隊と話し合う大佐の姿に、カルディナは後ろ髪を引かれながらもその場から引き離された。
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