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スニーカーを履いた足で一人、夜の住宅街を歩く。
「……」
ぼろぼろと涙を流しながら、アスファルトを踏みしめる。滲んだ視界には歪んだ家々が映し出される。
辺りを見回しても誰もいない。夜風が頬を撫でていく。ぬるい、夏の終わりの温度。
近所をぶらつく。当てもなく。特に何も考えず。ふらふらと。
あぁ、なんだか、ぐちゃぐちゃになった思考が整理される気がする。冷静になれる気がする。
涙を拭って空を見上げる。都会の空は空気が濁っていて、星はまったく見えない。
でも、いいんだ。アタシにとっては、これがいつもの夜空だから。
ずるずると鼻水を啜る。
こんなときには、音楽を聴きたい。そうすれば、この夜が、もっと素敵な夜になると思うんだ。
スマホにお小遣いで買った有線イヤホンをかちっとつけて、音楽プレーヤーのアプリを開く。大好きなアーティストの曲を流す。
明るい始まり。優しい歌声とノリノリのギター、軽やかなドラムがアタシの頭をくるくると回る。
あぁ、世界はこんなにも美しい。
そのときだった。
クラクションがアタシの世界に無理矢理割り込んできた。アタシはとても驚いて、周りを見る。
右手から大きな大きなトラックがこちらにやってくる! サーチライトがアタシの視界を白く支配する!
ぴゃっと身を引き、アタシはなんとか激突を回避することができた。
「はぁ……」
危ないところだった。走り去っていくトラックを見ながらそう思う。次は気をつけよう。もっと周りを見よう。
「イヤホンしながら歩くの、危ないよ?」
不意に声をかけられて、アタシはびくりとする。誰だ。
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