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後ろを振り向くと、そこには身長3mはありそうな何か……黒い人型のなにかがいた。
パーカーにズボンを履いているが、肝心の肌と呼ばれているところは黒く、子供の鉛筆の落書きのようにぐちゃぐちゃと不定形だ。
「聞こえてる?」
しかし、その声はかなり……そう、イケボだった。オタク仲間にきゃーきゃー言われている、あの。声優として声の仕事をしていてもおかしくない声だった。
「お嬢さん?」
「……」
アタシは返事をしない。なぜって? アタシの声は他人を傷つけるからだ。だから学校でも、必要なこと以外は絶対に喋らないのだ。
アタシは後ろの怪物を無視して歩き始める。
「おじょうさーん」
「……」
「ねぇ、返事してよー。つまんないよー」
「……」
「おかしいなぁ、僕に会った人はみんな返事するのに」
「……」
「おっかしいなぁー?」
いくらイケボといえども、何度もイヤホンを貫通して言われるとウザくなってくる。
怒りがふつふつと沸いてくる。
歩みを止める。
「お嬢さん?」
イヤホンを外す。途端に静寂が耳にまとわりつく。
「お、聞いてくれるのかい? やったー!」
「うるっせぇつってんだろテメェ!! ボケカス!! アタシの夜を邪魔すんじゃねぇ!! こちとら泣いてんだ! アァ!?」
「……お?」
「……あ」
両手で口を塞ぐ。
やってしまった。まただ。まただ。またアタシは、小学校の過ちを繰り返すのか。
また目から熱いものが溢れてくる。あぁ、くそ、アタシは、アタシなんて、生まれてこなければ……。
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