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「僕は殺さないよ。お嬢さんのこと。だっておもしろいんだもん」
「おもしろ……? んだとゴラ! バカにしてんのか?」
「違うよ! その個性、どこか生かせるところで生かせたらいいのになって思ってさ」
かみさまは上機嫌に提案する。
「歌手とかどう?」
「……は? 歌手?」
「そう。その声生かしてさ、かっこよく歌い上げればいいじゃん」
「……」
目を見開く。
その考えはなかった。たしかに、最近「がなり」って言って、イラついたときのアタシみたいな声を出す歌い方もあるし。
意外と、自分を隠さなくても、道はあるのかもしれない。
「……なんか、気づけた?」
「……あぁ。ちょっとミサキに言い返せたらいいかもしんねぇ……」
「そうだね。っていうか、お嬢さんの元の性格を出しちゃっていいんじゃないかな?」
「は? いや、それやったら引かれるだろ、フツーに」
「それでいいんじゃない? ミサキってヤツに好かれたいわけじゃないでしょ」
そうか。確かに、ミサキとその周りのヤツには好かれたくない。
じゃあ、言い返してコテンパンにしてしまってもよいのでは……?
「……燃えてきた」
「お! いいじゃん、その調子だよ。誰しも武器を持ってるんだから、得意を生かしていけばいいと思うんだよね、僕は」
「まぁ、でもほどほどにね」とかみさまは言う。あぁ、そこに気をつけないと。また、小学校と同じ展開は嫌だ。
「じゃ、僕はここまでかな。他の人も助けにいきたいからさ。お嬢さん、今日はここまででいい?」
「あぁ。ありがとな、かみさま」
感謝を伝えると、かみさまはゆらりと立ち上がった。ありがとう、なんて言ったの何年振りだろう。いつも会釈で済ませていたから、久々だった。
「また、いつでも会いにきてよ。夜になれば、僕の時間だから」
かみさまは夜の住宅街に消えていく。確かに歩いているのに、足音はしなかった。
なぁ、かみさま。アタシだって、我慢しなくてもいいよな。
ミサキのヤツ、絶対に見返してやる。
アタシの決意を、街灯がピカピカと照らしていた。
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