本物のお化け屋敷

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「ハハハ、お化けのくせに怖がっちゃいけないな」  ぼくに声をかけたのは、イケメンのお兄さんだった。隣には奇麗なお姉さんが立っている。 「お兄さんはだれですか」 「ぼくはオオカミ男だよ」  イケメン兄さんが答えた。 「オオカミ男さんって、オオカミに変身するんでしょ」 「そうだよ。見たいかね」 「ええ、ぜひ」  こんなイケメン兄さんが、あんな恐ろしい怪物に変身するなんて想像できない。 「よし、見せてあげよう。ちょっと待って」  と言って、オオカミ男さんが天井を見上げた。つられて、ぼくも天井を見る。満月の写真が天井に張りつけてあった。オオカミ男さんがそれをじっと見ていると、イケメンの顔が毛むくじゃらのオオカミの顔に変わった。 「どうかな?」  オオカミに変身した顔を僕に向けた。獲物を狙うギラギラ光る目とナイフのように鋭い牙。ぼくは体がすくんでしまった。 「ハハハ、そんなに怖がらなくてもいいよ」  オオカミ男さんが笑う。 「そうだよ、あなただってお化けでしょ」  きれいなお姉さんがぼくを見て笑っている。 「お姉さんも何かに変身するんですか」 「うん、するよ」  お姉さんはくるりと後ろを向いた。  こんな奇麗なお姉さんが、どんな恐ろしいものに変身するのだろう。ぼくは息を止めて待った。  お姉さんがこちらを向いた。顔が変わっていた。金色の大きな目と耳まで裂けた口。化け猫の顔だ。恐ろしくて腰をぬかしそうになった。 「彼女、ステキだろ?」  オオカミ男さんがぼくに聞く。 「あら、あなたもステキよ」  化け猫さんもオオカミ男さんを持ち上げる。 「それで、君は何かに変身するのかな?」  と、オオカミ男さんがぼくに聞いたけど、ぼくはこのままでも十分に人間を怖がらせることができると思っている。オオカミ男さんは西洋の妖怪なので、ぼくのことをよく知らないのだろう。 「いえ、ぼくはこのままですが」 「えっ、変身しないの? 君の顔はどうもインパクトが足らないように思うんだけど。店長どう思います?」 オオカミ男さんは店長に顔を向ける。 「うーん、そうだな。わたしもインパクトが足らないように思うな。どうしようかな」  店長は腕組みをしてしばらく考えてから、 「いい考えが浮かんだ。直ぐ戻る」  と言って、その場を立ち去った。  言葉通り、店長は直ぐに戻って来た。手に何やら持っている。 「君。悪いけど、君の顔に一つ目を書かせてもらうぞ」  店長はぼくの顔にマジックインキで一つ目を書いた。
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