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もう直ぐ夏も終わろうとしている。夏はお化けの季節なのに、この夏もぼくには人間を怖がらせる機会があまりなかった。
昔と違って、今は街灯の明かりやオールナイト営業の店の窓から漏れる明かりが、夜を明るくしている。ぼくたちお化けは、暗い所でしか活動することができないので、人間を怖がらせようと思っても、明るくては出て行くことができないんだ。
この夏ぼくができたのは、せいぜい林間学校の肝試し大会に紛れ込んで、人間たちを怖がらせたぐらいだ。
お化けにとって、人間を怖がらせることができないなんて、存在価値を否定されることだ。悲しいことだけれど、ぼくはこのまま夏が終わってしまうのかと諦めていた。
そんなとき、一つ目小僧君がぼくに会いに来た。
一つ目小僧君はこの夏オープンしたお化け屋敷でアルバイトをしている。そのお化け屋敷は数年前につぶれた郊外の遊園地跡にあった。少し不便な場所にあるけれど、とても怖いという評判がSNSで広まって、連日たくさんの客がやって来ては、怖がって帰って行く。「まるで本物のお化けが演じているようだ」という書き込みが多数あったけど、実際、演じているのは本物のお化けばかりなんだ。怖いはずだ。
「家族で旅行に行くんだけど、その間、お化け屋敷でぼくの代役をやってくれないかなあ」
一つ目小僧君が言った。
「本当? そりゃ嬉しいな」
「君がやってくれれば助かるよ。休むのなら代わりのお化けを探して欲しい、と店長に言われたんだ」
「もちろん引き受けるよ。店長さんにそう言っといてよ」
お化け屋敷で毎日人間を怖がらせることができるんだ。胸がわくわくする。引き受けなくてどうする。
「じゃあ、今夜君のこと店長に言っとくから、明日の夜お化け屋敷に行ってくれる?」
「了解、明日行くよ。持つべきものは友だちだな」
ぼくは明日の夜が待ち遠しかった。
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