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プラネタリウム
こと座のベガ、はくちょう座のデネブ、わし座のアルタイル。
『ベガとアルタイルは、織姫星、彦星とも言います。七夕の織姫と彦星ですね』
三つの星座を線で結ぶと、大きな三角形ができる。有名な「夏の大三角」だ。「夏の」とは言うが、日本では十一月まで見える。それでも一番綺麗なのは、八月上旬から九月頃。
その三角形を横切る星の群れが、七夕にも登場する「天の川」。天の川も条件が揃えば、夏が終わってもしっかり観測可能なのだ。
『以上で、本日の夜間特別上映を終了いたします。お忘れ物がございませんよう……』
ああ、もうそんなに時間がたったのか。頭上の星々に浸っていたが、館内放送で現実へ引き戻された。
ここは市立博物館のプラネタリウム。夏の間、土曜日に夜間上映会をやっている。僕は毎週、これを観に博物館へ通った。今日が今年最後の夜間上映で、毎年この最終上映を観ると、夏の終わりを実感し始めるのだ。
僕の家の周りは星が見えにくい。道路を走る車のライト、街灯、店舗の明かり……これらはすべて、星を観測する上で邪魔になる。さらに天気、湿度、空気の綺麗さ、月明かりなど、細かな条件はいくつかある。でもここへ来れば、すべて気にする必要はない。いつでも、最高の星空を魅せてくれるのだ。
もちろん僕だって、本当は実物を見たい。
星や星座は、すっかり贅沢品になってしまったのだろうか。僕はいつも悲しく思う。
「和泉さん、今日も最高でした!」
観覧席の後方、解説員席の和泉さんへ声を掛けた。僕が小学生の頃からいる人で、このプラネタリウムの大ベテランだ。
「星名君! ありがとう。それにしても、久しぶりだね」
「僕は毎週来てますよ。和泉さんが解説してないだけで」
「いやぁ、最近忙しくて。ほら、夏休みは館内イベント多いでしょ? もうすぐ社会見学もあるし、準備がね。ははっ」
同じ解説でも、人によって面白さはまったく違う。和泉さんのように、観客を巻き込んで笑いを取る人、淀みなくなめらかに語る人、一定のリズムで話し眠気を誘う人。
僕は、和泉さんの解説が一番好きだ。
「そういえば星名君、迎えは来る?」
「電車です」
「もう暗いから、まっすぐ帰りなよ」
「え? 大丈夫ですよ。男だし」
「ああいうのはね、性別関係ないんだよ。まだ高校生でしょ? 気をつけてね」
「心配性だなぁ。わかってますって。じゃあ、また来ます」
僕は博物館を後にし、駅の改札へ向かった。
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