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ポロンポロン。
夜十一時。
ベッドに寝転がって漫画を読んでいた十六歳・高校一年生の戸波浩二は、突如響いたメッセの通知音を訝しく思いながらスマホを取った。
浩二は身長百八十センチ・体重六十キロと、高校一年生にしてはかなり恵まれた体型をしている。
頭の出来は中といった所だが、顔もまずまず整っていて運動神経も良いと来ては、女子が放っておくわけ無いと思うのだが、生来の付き合い下手が災いし、彼女はおろか、クラスに友だちと呼べる存在が一人もいない。
だが、浩二自身も煩わしい人間関係を嫌っているので、これ幸いとばかりに教室では一番後ろの窓際の席を陣取り、『近付くな』オーラを出す始末だ。
そんな訳で、クラスで孤立している浩二ではあるが、連絡網の為に仕方なく幾つかメッセのグループに入っている。
だが、学校がある平日ならまだしも、夏休みの今、浩二に連絡してくる者など一人もいない。
なのに鳴ったのだ。
訝しくもなる。
面倒臭そうに送り主を確認した浩二の手が止まった。
内容を見て、更に目を疑った。
それは、クラスの優等生・槇原弥生からの、勉強会のお誘いだった。
――参加者が成瀬に小鳥遊、長峰、新見、それに槇原と俺か。……こりゃいったいどういう法則性だ? なぜこのメンバーに俺を入れる? 意味分かんねぇ。
浩二は首を捻ったが、さっぱり回答に辿り着けない。
――ま、クラスの中じゃ外れてる俺に、クラス内の人間関係なんざ分かるわけ無いか。
単純に夏休みの宿題を片付けたいメンバーが集まっただけだろうと結論付け、浩二は持っていたスマホの画面を消した。
――槇原は面倒見がいいから、俺が宿題をまだ残しているだろうと踏んで誘ってくれたんだろう。過度な期待はしないでおこう。
浩二は淡い期待を振り切り、スマホを充電スタンドに突っ込んだ。
◇◆◇◆◇
三日後。
三十五度越えの猛暑が列島を覆う中、外の暑さや喧騒も届かぬ静かな図書館の一角で、六人の男女が机に向かっていた。
私服を着てはいるものの、一見して全員高校生と分かる。
その様子からすると、勉強会なのだろう。
構成は男女とも三人ずつ。
六人が六人とも教科書とノート、そして揃いの学習用タブレットを机に置いて、たまに隣の友だちに小声で分からない箇所を教えて貰いながら、思い思いの教科の勉強に勤しんでいる。
と、ピンク地に天使の模様が入ったデザインTシャツを着て、髪をポニーテールにまとめた大柄な女子が、盛大に泣き言を漏らした。
「あたし、これ終わる気しない! もう無理! 成瀬、答え写させて!」
紺のデザインTシャツに黒のパーカーを羽織った成瀬奏太は、机に広げていたノートを無言で丸めると、真横で地団太を踏む自分の彼女――小鳥遊由良の後頭部を問答無用でスパーンと叩いた。
「あ痛ぁ! DVDだ! DVDだ! 訴えてやるぅ!!」
「シー!」
「す、すみません」
周囲の図書館利用者から睨まれた奏太は、由良の口を慌てて押さえながら周囲に向かって頭を下げた。
由良が黙るのを待って、奏太は由良の口を覆っていた手を外した。
小声で由良に話し掛ける。
「それを言うならDVだ、あほぅ。答え教えちまったら勉強にならないだろうが。だいたいオレなんか七月中に八割がた終わらせてたってのに、なんでお前は八月も半ばを過ぎてるのに宿題がほとんど手付かずなんだよ。今日の今日まで何やってたんだ?」
「部活だよ、部活! それ以外っていうと、成瀬と映画に行ったでしょ? あと成瀬と遊園地にも行ったし。それと成瀬とプールでしょ? あとは成瀬と……」
「もういい! もういい!」
由良が夏休み中に行った奏太とのデートを思い出しながら指を折るのを、奏太が強引に止める。
「仲いいねぇ」
「アツアツだねぇ」
奏太と由良の真正面に座る二人の男女がニヤけながらからかう。
「うるせぇ! そういう瑛斗のとこはどうなんだよ!」
「うち? うちは特にどこも行かなかったかな。ねぇ」
「そだね。うちは二人ともインドア派だから、基本、瑛斗の部屋でまったりしてたよ。クーラー効いてるしね」
薄緑のサマーニットを着た長峰瑛斗が黄色のシアーシャツを着て隣に座る新見莉恩と顔を見合わせる。
「そっか。お前ら隣に住んでる幼馴染なんだっけ。落ち着き過ぎだ、熟年夫婦め。外出ろ、外!」
「だって暑いんだもん」
「溶けちゃうじゃん。ねぇ」
小声で言い合う奏太と瑛斗を見て、莉恩の隣に座ったベージュのロングワンピースを着た眼鏡の少女がクスクス笑う。
「ふふふ。仲いいねぇ、成瀬クンと長峰クン」
「そういや槇原は? 戸波とどこかに出掛けたりしなかったのか?」
「わたしは別に戸波クンとは付き合ってるとかでは無いから……」
「そうなのか? 随分仲が良さそうに見えるけど」
「ああ。特に付き合った覚えは無ぇな」
奏太からの問いに、弥生と浩二がそっけなく否定する。
教室では前の方の席に座る優等生タイプの弥生と、窓際の一番後ろに座るちょっと尖ったタイプの浩二は接点が何も無さそうなのに、なぜかしょっちゅう一緒にいるイメージがある。
面倒見のいい弥生が、孤独を愛する浩二を舫い綱になってクラスに引き留めている感じだ。
ピピピピ、ピピピピ。
アラームが小さく鳴る。
瑛斗のスマホだ。
慌ててスマホを確認した瑛斗が奏太に向かって手を合わせて謝る。
「ごめん成瀬。ボクたち時間切れだ。そろそろ移動しないと映画が始まっちまう」
「お。もうそんな時間か。今日は付き合ってくれてありがとな。んじゃまた」
瑛斗がいそいそと机の上を片付け始める。
隣の莉恩が、机に突っ伏す由良の頭を人差し指でツンツン突いた。
「由良チはそろそろ頭が茹って来たっぽいけど大丈夫?」
「そろそろ限界ぃぃぃぃ」
莉恩も自分の勉強道具をカバンに仕舞いながら由良を気遣う。
奏太もそれを見て由良が限界だと感じたのか、ため息を一つついた。
「しゃーねぇ。小鳥遊、今日はここまでにしとこう。気分転換も兼ねて、遊びに行くか」
「い、行く! やった、成瀬とデートだ! でもその前にアイス食べたい!」
「分かった、分かった。頑張ったご褒美に買ってやるよ」
「いぇい!」
ワンコのように突然元気になった由良を見て、奏太が苦笑する。
その様子を見て、浩二もタブレットの電源を切った。
「んじゃ、ここで解散だな。槇原、駅まで送っていくよ」
「ありがとう、戸波君。じゃ、お願い」
こうして朝から始まった今日の勉強会は、お昼を待たずして解散となったのであった。
◇◆◇◆◇
「なぁ。アイツら、いつから付き合ってたんだ?」
慌ただしく図書館を後にした四人を見送った浩二は、ポツリと呟いた。
「アイツら?」
「成瀬と小鳥遊。いや、長峰と新見もか?」
「どっちもここ最近よ。知らなかった?」
並んで駅に向かって歩きながら、弥生が答える。
「今日はアイツらの意外な一面が見れて楽しかったよ。ありがとな、勉強会に誘ってくれて。お陰で宿題ももう少しで終わりそうだ」
「それは良かった。そういえば戸波クンって尖ったイメージがある割に、意外と宿題とか欠かさず提出するよね。真面目ぇ」
電車に乗る前に何か飲み物を買おうというのか、弥生が笑いながらホームの自販機に近寄ったところで、浩二はすかさず自分のパスケースを自販機に当てた。
「……ありがと」
ガチャ、ガコン。
自販機の受け取り口に手を伸ばしたはずの弥生は、だがジュースを取ること無く身体をクルっと反転させると、いきなり両手で浩二の頬を左右に引っ張った。
「にゃ、にゃにをする?」
弥生の予想外の攻撃に、浩二はなす術なく立ち尽くした。
「戸波クンはさ、身長が高い上に強面だから、どうしても機嫌が悪そうに見えちゃうのよ。本当は優しいのに勿体ないよ? 努めて笑った方がいいって。ほれ、むにむにぃぃ」
「やめれ、槇原」
浩二はしばらく弥生に遊ばれるままになっていたが、電車が入ってくるアナウンスを聞いて弥生を引き離した。
弥生が慌てて自販機からジュースを取り出す。
「バイバイ、またね!」
「おう。また」
上りの電車に乗った弥生を柄にも無く手を振って見送った浩二は、電車が見えなくなるのを待って、反対車線の乗り口に並んだ。
と、ズボンの尻ポケットに入れておいたスマホが微かに振動する。
ポケットからスマホを取り出した浩二は、画面に表示された弥生からのメッセの通知表示を見て、慌てて中身を開いた。
『夏休み最終日の日曜日、花火大会があるんだって。今日のメンバーで行かないかってお誘いがあったんだけど、戸波クンの予定はどうですか?』
浩二は一言だけ『行く』とメッセージを返信すると、周りの乗客に気付かれぬよう、その場で密かにガッツポーズをしたのであった。
◇◆◇◆◇
花火大会当日、午後三時。
待ち合わせの駅で電車を降りた浩二が改札を抜けると、売店の横には、既に浴衣を着た五人の男女が立っていた。
藍霧雨の浴衣を着た奏太。濃緑のしじら織の浴衣を着た瑛斗。朱地に朝顔の浴衣を着た由良。山吹色の地に蝶々の浴衣を着た莉恩。そして、白地に牡丹の浴衣を着た弥生。
浩二に気付いた弥生がぴょんぴょんその場で跳ねながら、浩二に手を振って合図を送る。
どうやら浩二が一番最後だったらしい。
内心かなり焦ったが、浩二は履き慣れない下駄が脱げないよう注意しつつ一行に合流した。
「悪ぃ、遅れたか」
「いや、時間内だよ。ボクたちが早かっただけさ」
瑛斗がフォローする。
「カッコいいね! やっぱり身長があると見栄えがあっていいよ、戸波クン!」
弥生がニコニコしながら、浩二の周囲をグルグル見て回る。
「ありがとう、槇原。槇原も……すんげぇ可愛い」
「ありがと」
弥生がニッコリ笑う。
「花火は六時からだ。席取りもあるし、そろそろ移動しようぜ。小鳥遊、案内を頼む」
「まーかせて! ここ、わたしの地元なんだ。途中、屋台がいっぱい並んでいる通りを通るから、そこで食べ物買って行こうね!」
由良の先導で、一行はぞろぞろ歩き始める。
見ると、奏太と由良、瑛斗と莉恩と、いつのまにやらカップル同士で並んで歩いている。
浩二は弥生の隣だ。
身長百八十センチの浩二と百五十センチの弥生が並ぶと高低差が激しい。
歩幅が違うので、弥生を置いていくことが無いよう、浩二は努めてゆっくり歩いた。
「な、なぁ。浴衣のままここまで来たのか? 電車に乗るの大変じゃなかったか?」
弥生が車に轢かれることの無いようさりげなく車道側を歩きながら、浩二は弥生に問い掛けた。
「ほら、さっきこの街が由良ちゃんの地元だって話してたでしょ? どうせならって、昨夜から莉恩ちゃんと一緒に由良ちゃん家に泊まらせて貰ったの。三人で夜通しパジャマパーティしちゃった。楽しかったなぁ」
「へぇ」
「戸波クンのその浴衣は自分の? それともお父さんか誰かの? あっ!」
弥生が道路の段差でつまづくのを、浩二は手を素早く出して支えた。
「ありがと!」
浩二は弥生の笑みに顔を赤くしつつも、気取られぬよう前を向いた。
「実は、成瀬経由で女性陣が浴衣着るって聞いてさ。女性陣が浴衣で着飾ってるのに男性陣が揃ってTシャツ・ジーンズはマズかろうって話になって、急遽三人で買いに行ったんだ。間に合って良かったよ」
「凄く似合ってる。カッコいいよ、戸波クン」
「お、おぅ。槇原も……あれ?」
「どうしたの? 戸波クン」
「いや……はぐれたみたいだ。四人がいねぇ」
「あらら」
赤信号で止まった浩二は、スマホを取り出した。
「メッセで連絡取ってみるか……」
「いいよ、戸波クン。夜にはまた最集合するし、邪魔するのも悪いしさ。だいたい、この人波で探すのは無理でしょ」
弥生の言う通り、花火会場でもある土手に向かって人の流れが発生しているが、大渋滞を引き起こしており、これに逆らって歩くのはかなり厳しそうだ。
「そうか。分かった」
「あ、待って!」
弥生が浩二に向かって、右手を差し出す。
細くか弱い手だ。
浩二は意味が分からず、差し出された手と弥生の顔とを何度も見比べる。
「この人波でわたしたちまで逸れるわけにはいかないから、手、握ってて貰っていい?」
普段クールで動じないことを信条としている浩二も、流石にハートが限界値を超えたか、顔を赤くする。
浩二は慌てて手を自分の浴衣に擦り付けて手汗を拭うと、弥生の手を取った。
信号が青に変わる。
「行こう」
浩二は弥生が痛がらないようそっとその手を握り、花火大会の会場である土手へと向かった。
◇◆◇◆◇
ドーン、ドーーン!
パラパラパラパラ……。
「たっまやーーー!! 凄い凄い! ね、良く見えるね、ここ」
「そうだな。成瀬チームも長峰チームも、どこかいい場所を確保できてるといいけど……」
浩二は持ってきたレジャーシートの上に、弥生と並んで座っていた。
コンビニで適当に買ったレジャーシートだったが、想像していたより小さく、座ってみると、弥生とピッタリ寄り添う形になってしまった。
弥生はバッチリ見える花火に大興奮だが、浩二は弥生と接していることに意識が集中してしまって内心、花火どころでは無かった。
「そろそろタコ焼き開けるね。熱いから気を付けて食べて。はい、あーーん」
「あ、あーーん」
――おい、これ、いいのか? まるでカップルみたいじゃないか。槇原は俺とこんな事してて嫌じゃないんだろうか。ど、どうする? これ、告白しちゃっていいパターンか? 言っちゃっていいのか?
普段クールぶっている浩二も、所詮は高校生だ。
人並みに恋愛感情はある。
一学期の頃から浩二の醸し出す『誰も近寄るな』オーラをモノともせず、ずっと自分の傍にいてあれこれと世話を焼いてくれた弥生に想いを寄せてしまうのも当然といえば当然だった。
「美味しい?」
「お、おぅ」
ドーン! ドドーーン!
パラパラパラパラ……。
「あ、あのさ……」
「あ、次、食べる?」
笑顔で自分にたこ焼きの刺さった串を向ける弥生を見て、浩二の心の壁はあっさり崩壊した。
ドーン! ドドン、ドーン!!
パラパラパラパラ……。
浩二は花火をバックに、思いの丈を全て吐き出した。
そして――。
「えっと……じゃあ……はい」
「い、いいのか?」
「断る理由も無いし……。あ、暑いね。えへへ」
弥生が顔を真っ赤にして照れ笑いをする。
川風が吹いて本来涼しいはずなのだが、浩二も弥生も体温が上がってしまっているようだ。
「壊れてるのかな。あんまり涼しくならないや」
照れ隠しなのか、弥生は持っていた巾着からハンディファンを取り出すと、自身の顔の辺りをしきりに当て出した。
その様子を見て感情が昂った浩二はそっと、弥生の手を握った。
一瞬ビクっとするも、弥生もその手を握り返す。
ドォォォォォォーーーーン!
夜空に大輪の花が咲いた。
感極まった浩二は、花火の音と共に夜空に向かって叫んだ。
「槇原、好きだぁぁぁぁ!」
流石に周りのカップルたちが気付いたようで、浩二たちの方を振り返ってクスクス笑う。
「こ、声が大きいよぅ、戸波クン、もぅ!」
あまりの幸せにとうとう壊れた浩二の脇腹を、弥生は顔を真っ赤にしながらポカポカ殴るも、壊れてしまった浩二は他人の迷惑を顧みず、いつまでも喜びの雄叫びを挙げ続けていた。
こうして、戸坂浩二の夏は無事終わりを告げたのであった。
◇◆◇◆◇
「うーす」
「お、来た来た。戸波、こっちこっち」
「夏も終わりだってのに、まだまだ朝から暑いね」
翌朝。
いよいよ新学期が始まって教室に入った浩二は、入り口近くの席に座っていた奏太と瑛斗に呼び止められた。
「新しい席、こっちだよ」
「よもや三人並ぶとは思わなかったけどな」
瑛斗が黒板を指差す。
そこには、今日からの新しい席次が書かれた紙が貼ってあった。
確認すると、確かに廊下側で三人並んでいる。
「そうだ。お前ら、昨夜スマホが通じなかったぞ。お陰であの後合流できなかったけど、皆無事に帰り着いたのか?」
「あぁ、あの辺り、土手だけあって電波悪いのな。でも、各自判断して問題無く帰れたようで良かったよ」
「だね」
奏太と瑛斗が笑う。
その笑いに何か別の意図を感じた浩二が眉を顰める。
「……何だよ」
「いや。花火会場で大絶叫告白とは、流石に予想外だったからさ」
「な!?」
「気持ちが昂るのは分かるけど、程々にね」
奏太と瑛斗の苦笑と対象的に、浩二の顔がワナワナ震える。
「お前ら、近くにいたのか!?」
浩二は周囲に気付かれぬよう、だが険しい顔で二人を問い詰めた。
ところが、浩二の予想に反し、奏太と瑛斗は揃って首を横に振った。
「いんやぁ。小鳥遊が屋台から離れなくて、オレのとこは結局最後まで会場に辿り着けなかったよ」
奏太が肩をすくめてみせる。
「あはは、目に見えるようだね。ボクのとこは莉恩が履き慣れないゲタで靴ずれ起こしちゃって早々にリタイアしたよ。花火大会が終わるまでずっと駅前のハンバーガー屋さ。でも、お陰で混む前に帰りの電車に乗れたから、かえって良かったかな」
瑛斗も同じように肩をすくめる。
嘘を言っている様子の無い二人を見て、浩二は首を捻った。
「お前らじゃ無いなら誰が……」
と、奏太と瑛斗の視線が窓際に向かうのを見て、浩二も窓際を見た。
視線の先では、由良、莉恩、弥生の三人が何やら笑いながら話している。
どうやら女性陣は女性陣で、上手いこと席が固まったらしい。
そこで一つの可能性に行き当たった浩二は、慌てて二人の方に振り返った。
「え? まさか……そこなのか?」
そんな不明瞭な言葉だけで浩二の言いたいことが分かったのか、奏太と瑛斗が黙って頷く。
「嘘だろぉ? よりにもよって元栓が壊れてるのかよ……」
思わず机に突っ伏す浩二の背中を、奏太がポンポンと優しく叩いた。
「ま、心配すんな。情報ダダ漏れなのは戸波だけじゃねぇんだから」
「そうそう。ボクらの姫君はそりゃもう仲良しでね。ボクらの言動は全て、翌朝までには共有されちゃうのさ」
「……何だとぉ?」
浩二は信じられないモノを見たかのように、身体をワナワナ震わせた。
奏太と瑛斗は憐憫の表情を浮かべつつ浩二に寄り添うと、耳元でそっと囁いた。
「悩めるアオハル少年の会へようこそ」
END
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