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探しに行かなきゃ
「そうだ、合コンに行こう」
真里はぐっと拳をつくり、もう片方の手を陽奈の肩にぽんっと置いた。今にも泣きそうな顔で、悲壮感を漂わせていた陽奈は突然の提案に口をぽかんと開けて固まった。
「ご、合コン?」
「そう、合コン。失恋に一番効く薬は、新しい恋。新しい恋は待っていても来ない。探しに行かなきゃ」
「いや、私、合コンとかにが」
「メソメソしてるくらいなら、新しい試みした方がいいって!それに、合コンは慣れ!さぁ、行くよ!」
陽奈の手を取って、勢いよく歩き出す真里。一度決定したことは、絶対に遂行する真里は陽奈の静止も聞かずにどんどん進んでいく。陽奈はそんな真里をバタバタと追いかけた。
「あんな男のことは忘れなさい」
合コンが開始するまでの時間で、服やメイクや髪を整えようと一度、真里の部屋へと上がらせてもらった。
思いつきで合コンをしようと言い出したのに、すぐに人を集められる真里に感心する。正直、あまり乗り気ではなかったが、真里の言うとおり、止まっていても仕方がない。それに、わざわざ突然の誘いに乗ってくれた人にも感謝しなければ。そう思いながら化粧を直していると、キッパリとした声で真里が言った。
あんな男、とは、陽奈が昨日まで付き合っていた男のことだ。人生で初めてできた彼氏だった。
高校まで女子校で育ってきた陽奈は、大学の講義で同じグループになったその人に、人生で初めて告白されたのだ。舞い上がった陽奈は、嬉しくて、その人のことが大好きだと思った。だから付き合った。今となっては、あれが恋だったのかもわからない。
初めてのお付き合いは、陽奈にとって違和感の連続だった。毎日の連絡、触れようとする手、付き合った瞬間に、ゼロになろうとする距離感。その全てが、陽奈には慣れなかった。
だから、だろう。付き合い始めて半年になる昨日、陽奈は振られた。
“お前、つまんない”
一言、そう言われた。話が面白くなかったのかな、なんて可愛いことを考えていたがそうではなかった。
“半年も付き合ってやらせないとか、ありえねぇよ”
陽奈に別れを告げた後、彼が友達にぼやいていたのを聞いてしまったのだ。陽奈としては、大切にしていたファーストキスを捧げたことだけでも、かなり大きなことだったのに、相手はそれじゃ満足ではなかったらしい。
好きなのに、というより、心を尽くそうとした相手にそんな風に言われたことや、自分の大事なものを捧げたのに、それが大事にされなかったこと、色々なことに傷つき陽奈は涙が止まらなくなった。
親友の真里に別れの報告とともに理由を告げると、陽奈の分まで怒ってくれた。そして、今日、新しい出会いの場へと連れて行ってくれようとしているのだ。
「だいたい、付き合ったらすぐやれると思うような男、こっちから願い下げよ」
「でも、大学生ってそうなんでしょ?」
「……まぁ、付き合ったらもっと触れたいと思うのは、そうね」
「私がそう思えなかったから、私は恋愛に向いてないんだよ」
「違うわよ、それは。陽奈があいつのことを好きじゃなかっただけよ」
なら、やっぱり恋愛に向いてないのではないか。陽奈はそう思った。告白されたとき、確かに嬉しかった。だから、自分も相手が好きなのだと思った。でも、触れたいとか、触れられたいとかって思うことはできなかった。
あの気持ちが好きじゃなかったら、恋って一体どんな気持ちなんだろうか。
「好きって難しい」
「陽奈はバカね」
笑いながら真里は、陽奈の髪を巻く。
話をしながらも、着々と陽奈を飾ってくれていた。
「よく言うでしょ、恋はするものじゃなくて、落ちるもの。考えても無駄よ」
「落ちる…?」
「そ。理由なんかわかんないけど、その人が気になって、目が離せなくなって…そうなったらもう好きなのよ」
「………そんな人、いるのかなぁ」
「それを探しにいくのが合コン!」
恋はするものじゃなくて落ちるもの。
自分にも、落ちるような瞬間が来るのだろうか。
合コンに行ったとして、都合よくそんな瞬間が来るとは思えなかったが、張り切る真里に押されて陽奈は合コンへと向かった。
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