十六

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十六

 翌朝、二人は若者たち五人と共にチャーター船に乗った。昨日とは異なり、誰も口を開かないどころか、目を合わせようともしない。船のエンジンだけが背筋に響き渡る。十人も乗れば足の踏み場もないような小船の操縦室で、船頭も何食わぬ顔で前を見つめていた。 「妙だな」 「何ガ?」  若者たちに目をやった。 「あいつら昨日抱えていたボードを持っていない」  エンジンが唸りを上げた。すぐに本土の港が小さくなった。 「お前、泳げるか?」  志明が首を横に振った。リュウが溜息をついた。すると若者たちの中の一人が立ち上がって、近づいてきた。 「ヨウ、アンタラ一体何者ダ?」 「俺達ハタダノ旅行者ダ。島ヘ観光ニ来タ」  若者たちが苦笑する。 「今時、島ニ観光デ渡ル奴ナンカイネエヨ。一体何ガ目的ダ?」  志明と視線が合った。指が微かに震えている。 「隠シテモ仕方ナイカラ言ウガ、俺達モクスリガ目的ダ。オ前達ト同ジ南海ノ孤島デ自由気ママニ楽シミタイダケサ。ソレナラ文句ハナカロウ?」 「ソレハドウカナ」  男が尻のポケットから銃を出して志明に向けた。慌ててリュウと志明も上着の胸ポケットに隠した銃に手を伸ばした。 「オット、手ヲ元ニ戻シテモラオウカ」  志明に向けられた銃を握る指に力が籠る。周囲を見渡すと、他の若者たちも一斉に銃口を向けている。船頭を見るとニヤリと笑い、手で合図を送った。 「何ノ真似ダ」 「色々ト嗅ギ回ラレテハ困ルンダ」 「誤解スルナ、俺達ハ警察ジャナイ」 「トボケルナ、両手ヲ高ク上ゲロ」  リュウと志明が従うと、若者の一人が近づき、二人の上着から銃を抜き取り海へと投げ捨てた。 「物騒ナモノヲ持ッテ何ヲスルツモリダ?」 「正直ニ言オウ、俺達ハ白蓮幇ダ。オ前達ニ危害ヲ加エルツモリハナイ」  男たちが顔を見合わせた。 「ソレガドウシタ? 昨夜ハ随分ト舐メタ事ヲ言ッテクレタジャネエカ」  王志明の表情が青ざめた。 「ソンナコトデ怒ッテタノカ? 気ニ障ッタンナラ謝ル」  すると若者たち全員が低い笑い声を立てた。 「ソンナ事ハドウデモイイ」  そう言うのと同時に一人が銃の柄で王志明の頭を殴った。呻き声がして、額から鼻にかけて赤いものが伝い、膝から折れた。 「志明!」  それを見て、またせせら笑う。 「オイ、昨夜ノ威勢ハドコニ行ッタンダ?」  リュウが睨みつける。 「その位にしておいた方が、お互いのためだと思うが?」 「日本人カ?」  無意識に日本語で話していた。 「日本人ガコノ島ニ何ノ用ダ?」  男がリュウの首筋に銃を突き付けた。その銃に見覚えがあった。 「マア、待テ」  リーダー格と思われる男が近づいてきた。 「コノ銃ハ暴発シヤスイ」 「知ッテル。旧ソ連製ノマカロフダロウ?」 「銃ニ詳シイノカ?」  男の表情が変わった。 「ナア、俺達ハタダ、アル老人ノ行方ヲ追ッテイルダケナンダ」 「老人?」 「ソウダ、コノ辺リノ島ニ渡ッタトイウ情報ヲ得テ、俺達ハココニ辿リ着イタ。オ前達ガ何ヲ隠ソウトシテイルノカ知ラナイガ、俺達ニトッテハドウデモヨイコトダ。余計ナ詮索ヲスルツモリモナイ」 「ソノ老人ノ名ハ?」 「悪イガ、ソレハ関係ノ無イコトダ。聞イタトコロデ、多クノ偽名ヲ使イワケテイル」 「俺達モ、ソノ老人トヤラヲ探シテイル」  リュウが大きく目を開けた。 「何だと!」 「後ハ上ガ決メルコトダ。オイ、コイツラニ袋ヲ被セロ」  王志明が気を失ったまま麻袋を頭から被せられた。 「俺達をどこに連れて行くつもりだ?」  そう言うのと同時に頭を銃で殴られた。目の前が真っ暗になり、温かいものが耳の脇を伝ったと感じた。その先のことは覚えていない。
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