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四章 コウキとゴウキ
思い出に浸りつつ、ほうじ茶ラテを飲んでいた瑠璃子だったが、店に入ってきた客にを見て、思わず顔を顰めた。
「おう!小娘!また来てたのか」
明るい金髪に、着崩したスーツを身にまとい、明らかに夜の仕事をしているであろう男が、大股で近づいてくる。
この店の常連で、ここに通ううちに何かとちょっかいをかけてくるようになったのだ。
「ちょっと!ゴウキさん!ほとんど年齢変わらないのに、その小娘って呼び方、やめてくださいよ」
「ん?別にいいじゃねーか。しかし…なんか、お前匂うな…」
「え!?やだ、嘘!」
「いや、お前自身の匂いってわけじゃ…」
「ゴウキ、女性に対して失礼だぞ」
嗜めたコウキとゴウキはしばらく目で何やら会話をしていたが、焦っている瑠璃子はそれに気づかない。
「あ。違う女の香水が鼻に残っていたかな。すまんすまん、気のせいだったわ」
「え〜!ちょっと、ゴウキさん!」
その後は、ゴウキを交えてひとしきり会話を楽しんだ後、瑠璃子は今日あったモヤモヤとした気持ちがすっかり軽くなるのを感じた。
「よし!何だか気分がスッキリしました!明日も頑張れそうです」
瑠璃子は席から立ち上がると、
「ごちそうさまでした!コウキさん、また来ますね」
「はい。お待ちしてます」
そのやりとりに満足して、「黄昏」を後にしたのだった…。
そんな瑠璃子の姿を見送ったゴウキは苦笑した。
「しかし、小娘は俺らのことにいつになったら気づくんだろうな」
「さあな」
「いいかげん、教えてやったら?ここは、鬼茶店…鬼が集う店なんだってさ」
そう、コウキは香鬼…香りを支配し、操る鬼。
ゴウキは剛鬼。鬼の中でも一際強い「力」を持っている鬼である。
「毎回きっちり、招きを渡してやってんだろ?」
「………」
ここ「黄昏」は、人と、人ならざるものの世界を繋ぐ道にある。店はコウキが張った結界の中なので「招き」がないと入れない。
「招き」とは、相手が入りたいと願い、結界の主であるコウキが「どうぞ」と許可を出すことだ。
通常、人間である瑠璃子は、入ってはいけない場所なのである。
例の小道も、本来人間なら無意識のうちに避けて入らないこちら側なのだが、偶然にも瑠璃子は迷い込んでしまったのだ。
稀にあることなので、そういうことがあったら記憶を消して帰す事にしている。なので、こういう状況は異例中の異例なのだ。
「しかし、小娘に纏わりついていた匂い…。なんか起きなきゃいいけどな…」
コウキは煙管から煙を吸い込むと、ゆっくりと吐き出す。
少し苦味のある香りが店内に広がっていった…。
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