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声にならない声の行くあて
誰かの叫んだ声にならない声を見つけたので僕は声をかけた。
「そんなところで何をしているの?」
暑くも寒くもない日の昼でも夜でもない時間帯だった。
誰かの声にならない声がしゃべる言葉は聞き取りづらかった。まるで壊れたラジオから聞こえてくる異国の言葉のようだった。
「僕はね、特に何もしていないよ」
そう言うと、反応があった。やはり聞き取れない。僕は一方的に話すことにした。
今朝の占いで最下位だったこと。たまにくる友人からの連絡が結婚ばかりなこと。やらなければいけないこと。仕事で失敗したこと。最近、彼女と別れたことなどを言葉に詰まったりしながら話した。
〈でも大丈夫、カラフルなラムネを食べて気持ちをリフレッシュさせてください〉
〈久しぶり。実は、この度、結婚することになりました〉
〈何回目だよ。いい加減にしてくれよ〉
〈アンタといた時間は本当に無駄だった〉
「んなの、ねーよ」
「おめでとう。よかったな」
「申し訳ありません」
「ごめん」
空が紫色に染まり始める。ため息が生ぬるい風に飛ばされる。誰かの声にならない声も一緒にかき消された。砕けたガラスをこすり合わせたみたいな耳ざわりな音がした。
『今日の運勢一位はさそり座のアナタ』
『おめでとう。結婚するんだってな』
『さすがだな。本当に助かるよ』
『あなたに会えて本当に良かった』
「だからなんだよ」
「だからどうしたっていうんだよ」
「そりゃどうも」
「どういたしまして」
蜂蜜を垂らしたみたいな月が浮かんでいる。街の灯りが揺れている。どこからか声が聞こえてくる。欠伸が出たので家へ帰ることにした。
夜空に頼りなさげに浮かんでいる星たちが、舌打ちしているように輝いていた。
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