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彼が待ち合わせ場所の教室に来るのは、何時も最終下校時間を知らせるチャイムが鳴る大体十分前。キュッキュッキュッと廊下の鳴る音が聞こえてきて、教室の引戸の音がして、
「待たせてゴメン!」
と、言いながら駆け寄ってきてくれる。何時も部活が終わって、慌てて来てくれるのが分かるから、待つことが苦じゃない。
「窓から見てんの楽しいし、謝らんといてなぁ…さぁ、チャイム鳴る前に帰ろっか!」
さっきまで窓から運動場にいるあなたを見てるだけやったのに、今こうして会えて、一緒に帰れるのが嬉しくって、いつも笑みがこぼれる。
チャイムが鳴る前に足早に学校を後にするのはいつもの事。
校門を出て、二人が利用する駅に向かうのに右に曲がる…はずが、急に立ち止まる彼。私も慌てて止まる。
「どうしたん?なんか忘れ物したん?」
背の高い彼を見上げて聞いてみた。
「ううん、忘れ物はしてへん」
その答えに頭を傾ける。そんな私の様子を見て、苦笑いをして、んーと、少し考えている様子。
「どうしたん?なんか言いにくいこと?」
少し心配になって、聞いてみた。
「えっ?う~ん…」
そう言って、少し朱みが出てきた空を見て、下を向いてしまった。
これはただ事でない様子…と、慌てて下から顔を覗き込むと、彼と視線がぶつかって、一瞬時が止まる。
「あの…この後なんか予定ある?」
そう言って、少し不安そうに切り出した彼。
何が不安なのか?少しでも安心して欲しくって、大袈裟に頭を左右に振り、明るく声を返す。
「予定…?ううん、何にもないで?」
じーっと、私の顔を見て、
「ほんま?」
と一言返ってきた。
「ほんまに!」
彼を見て笑顔でそう伝えると、少し耳を赤くして、照れ臭そうにして、えっーと…と、ぽりぽり頭を軽く掻きながら、話し出した。
「少し寄り道がてら、この先の小さい山の滑り台がある公園に行かへん?」
(そんや、そんなことか。溜めすぎやん。そんな言いにくそうにしんでもいいのに…)と、思って、一瞬返事が遅れてしまった。
「………いいで?行こ行こ」
一瞬私の返事が遅れたことに気づいていない様子で、返事を聞いて安心した顔を見せた彼。
彼を先頭に小さい山の滑り台がある公園へ歩き出した。
🕊️ 🕊️ 🕊️ 🕊️ 🕊️
公園内へ着くと歩くペースが心持ち速くなった様な?彼。そんな彼に私は、少し大きめの公園内をキョロキョロしもって付いていく。
小さい山の滑り台がある場所につくと、空は茜色なりかけていた。
「ここに座ろ」
と言いながら、リュックを地面に置いて、中から少しくしゃくしゃになったスポーツタオルを取り出して、両手で広げて、地面に敷くと、ゆっくりした動作で足を伸ばして座る彼。そして、私を見ながら、横の空いている場所を軽くポンポンと二回たたく。
その動作を見て一瞬固まった私。
「えっと、おじゃまします?」
と言ってから、ぎこちない動きで近づいて、ゆっくり足を伸ばしながらタオルの上に座る。鞄は伸ばした足の上に置く。並んで座る彼との距離はゼロセンチ。
お互い正面を見て、体感で五分程沈黙。
並んで座る彼との距離を感じなくなったかと思ったら、軽く彼からの体当たり。
「えっ?」
と声を出して彼の方を見ると、少し覆い被さる様に彼が身を乗り出して、私のくちびるにチュッと軽くキスをした。
「ええっ?」
と言って口を両手で覆って彼を見ると、明後日の方を向いて茜色の空を見ている彼の顔も茜色になっていた。
(終わり)
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