水晶宮

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 水晶宮を見に行こう。  誘ったのは、僕のほうだ。  だからエリカがいなくなったのは、僕のせいに違いない。  その水晶宮は、万国博覧会の目玉施設だった。一面ガラス張りのまるい建物の中に、遠い大陸から運ばれた、めずらしい宝物が飾られていた。ガラスでできた外壁は空の色を映して青く輝き、まさに「水晶」の名にふさわしかった。  水晶宮の美しい外観が模写された新聞の挿絵を目にして、僕はそうだ、と、エリカのことを思い出した。エリカをここへ、万国博覧会の水晶宮へ連れて行ってあげよう。僕はそう思いついたのだった。  なぜなら、エリカはつい先日、母親を病気で亡くしたばかりだったからだ。母親の死以来、エリカは笑わなくなってしまった。そして何をするにも上の空で、意識が戻っているかと思うと、突然目に涙を浮かべたりしているのだった。  僕は思った。万国博覧会に行けたら、エリカだって喜ぶのではないだろうか。なかでもこの水晶宮はどうだ。まるで聖なる書物に描かれた天上の宮殿のようではないか。
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