水晶宮

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 子が親を恋うのは当たり前のことだろう。まして死に別れた親ならば、なおさら。  それなのに、僕はどうしてこんなに不安になって、抑えきれないくらいの怒りを抱えてしまうのだろうか。  エリカのせいだ。  こんな気持ちになるのは本当に嫌だったし認めたくなかったけれど、こんな気持ちにしたエリカがいけないのだ。そう思った。  それがいけなかったのだろうか。  あんなことを思ったからといって、エリカを嫌いになったわけじゃなかったのだ。むしろ、好きだ。エリカが好き。エリカには、いつでも笑っていて欲しかった。悲しみから一ミリでも遠くへ連れて行きたかった。そして、エリカの母親のことすら忘れてしまうくらい、僕を慕ってほしかった。  エリカがその消息を絶ったのは、水晶宮へ行った翌日のことだ。たった一人の家族である父親への書き置き一つなく、忽然と姿を消したのである。  近くの川や森など、一帯を探し回ったが、靴ひとつ、髪留めひとつ発見されなかった。何も見つからないまま、エリカは「死亡した」と判断された。虚しい棺が用意された。エリカの父親は短い間に、家族を続けて二人も亡くしてしまったことになってしまった。
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