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水晶宮に行けば気分も少しは明るくなって、もとのエリカに戻れるかもしれない。もとの明るくてよく笑うエリカに。そう思って僕は、エリカに万国博覧会について書かれた新聞のきれはしを見せた。
きらめく水晶宮に魅入られ、群がる街の人々。女、男、子どもたち。
その挿絵をエリカは無言で眺めていた。でも、その瞳に力はなく、何の言葉も、何の感情も生まれてこないようだった。
僕は、そんなエリカを見つめて、思った。
目の前にいるエリカは、エリカじゃない。
本当のエリカの目は、もっと朗らかで美しかった。僕が恋に視界を曇らせているとか、そういうことではなく。エリカの美しさは、まるで現実の奇跡のようなものだった。僕たちの町に住む皆がそれを認めたことだろう。エリカは本当に美しかった。エリカの瞳こそ水晶のようだったし、金銀に光る髪、みずみずしい肌、エリカの全てが神様から授かった宝物だったのだ。
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