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「エリカは、僕についてくればいいから」
それを聞いて、やっとエリカは顔を上げた。エリカと目が合って、やっと見つめてくれて。僕はうまく笑えないくらい感激してしまった。
三日後、僕たちは水晶宮に行った。それまでの間、僕は少しでも身なりをきれいにしようとして、服を選んだり、きれいに洗濯したりした。さらに僕は姉のクローゼットからこぎれいな帽子を盗み出して、エリカにプレゼントした。すると、エリカは
「ありがとう」
と頬をふっくらさせて笑ってくれた。
丁寧にものを扱う姉と違って、粗雑な僕の帽子はつばが歪んでしまっている。だけど僕はその帽子しか持っていない。
「どうかな?」
と聞くと、
「いいわ」
とエリカが言ったので、僕は満足して、出発した。
万国博覧会の会場は、予想通りの混雑ぶりだった。入り口のところで切符を係の者に手渡すはずが、人が雪崩のように押し寄せてきて、一つ一つ確認するどころではない。係の手がモゾモゾとうごめいているのだけが見える有り様である。係の手は、みるみるうちに人ごみに飲み込まれていく。だから僕たちは難なく会場に潜り込むことができた。
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