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会場の中は、見たこともない世界だった。色とりどりの建物が立ち並び、色とりどりの衣装に身を包んだ人たちが行き交っている。
その中で僕たちときたら、何て地味なんだろう。まるで花畑の中を走り回るねずみのようだ。エリカも同じように感じたのか、帽子を目深にかぶり直した。
僕たちは水晶宮を目指して歩いた。巨大な大人たちがゆく手を阻み、なかなか前に進めない。それどころかよそ見をしていると、いつの間にかエリカと全然違うところにいる。
僕はぎゅっ、と、エリカの腕をつかんだ。エリカは僕の手をじっと見て、何も言わなかった。だから僕はエリカの手をつかんだまま、黙って歩いた。
ピエロが近づいてきた。
白黒のピエロである。風船を持っていて、周りに何人かの子どもが集まっている。風船の色もまた、なぜか白と黒だった。
そのピエロが僕たちの前でぴたりと止まった。風船を差し出してくる。白い風船だ。
僕は風船を、受け取ろうとした。
するとピエロが
「まさか子どもだけで来たわけじゃ、ないよね」
と言った。
ぎくりとした。
でも、
「違うよ」
と僕は答えた。
「そうか。ならいい」
ピエロは笑った。白黒の顔を歪めて。
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