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「もし子どもだけで来たんだったら、早く帰りなさい。悪いことが起こらないうちに」
「……え」
「それとも私と一緒に来るか?」
いやなピエロだと思った。だから、僕は結局差し出された風船を受け取らなかった。
ピエロは去っていく。子どもたちを引き連れて。子どもたちはみんな、ピエロが持っているのと同じ白と黒の風船を持っていた。
「……エリカ、行こう」
僕はエリカを振り返った。エリカは
「うん」
と言いながら、しばらくピエロをじっと見ていた。
僕はエリカの手をひいて歩いた。何となく不安だった。それに、エリカの顔つきにあまり変化が感じられないことにも、少しがっかりしていた。まるで僕の気持ちだけが先走っているみたいだ。エリカが喜んでくれると思って連れて来たのに、なぜだ。何で僕だけ張り切っているみたいになっているんだろう。
エリカも、エリカだ。愛想笑いの一つでもできないものなのか……。
そんなことを考えながら顔を上げて、僕はハッとした。
目の前に水晶宮があったからだ。
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