水晶宮

7/11
前へ
/11ページ
次へ
 僕たちはずっと水晶宮を目指して歩いてきたはずだったが、水晶宮の出現はあまりに突然だった。まるでたった今地底から飛び出してきたみたいに、突然僕たちの目の前に現れたのである。僕たちがあの白黒のピエロに目を奪われていたせいも、あったのかもしれないけれど。  水晶宮は新聞の挿絵なんかより、ずっと輝いていた。太陽の光に照らされて、青や黄色、多彩な光を窓に映す。扉もガラスでできていて、中へ入っていく人々は扉が閉まると、まるで泡のように水晶宮の中に消えていくのだった。 「ここだよ、エリカ」  僕はエリカに話しかけた、手をつないだままで。  エリカは、 「きれい」  と言った。 「母さんに、見せてあげたかった」  と。  僕はなぜかカッとなって、つないだ手をさっきよりも強く握りしめた。 「……いたっ」 「中へ、入ろう」  エリカは、どうだったんだろう。手をつなぎたかったのは、僕だけだったのかもしれない。  とにかく僕たちはお互いの手を握りしめながら、勇気を出して水晶宮の中へ入っていったのだ。  水晶宮は、その中も素晴らしかった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加