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僕たちはずっと水晶宮を目指して歩いてきたはずだったが、水晶宮の出現はあまりに突然だった。まるでたった今地底から飛び出してきたみたいに、突然僕たちの目の前に現れたのである。僕たちがあの白黒のピエロに目を奪われていたせいも、あったのかもしれないけれど。
水晶宮は新聞の挿絵なんかより、ずっと輝いていた。太陽の光に照らされて、青や黄色、多彩な光を窓に映す。扉もガラスでできていて、中へ入っていく人々は扉が閉まると、まるで泡のように水晶宮の中に消えていくのだった。
「ここだよ、エリカ」
僕はエリカに話しかけた、手をつないだままで。
エリカは、
「きれい」
と言った。
「母さんに、見せてあげたかった」
と。
僕はなぜかカッとなって、つないだ手をさっきよりも強く握りしめた。
「……いたっ」
「中へ、入ろう」
エリカは、どうだったんだろう。手をつなぎたかったのは、僕だけだったのかもしれない。
とにかく僕たちはお互いの手を握りしめながら、勇気を出して水晶宮の中へ入っていったのだ。
水晶宮は、その中も素晴らしかった。
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