水晶宮

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 しばらく、背中をさすってあげた。  誰か。  僕は助けを求めようとして、顔を上げた。  誰か。  けれど、誰もいない。  さっきまで行き交っていたはずの客が、一人もいないのだ。  どうして? どうして誰もいないんだ。僕は必死でエリカをさすりながら人の姿を探した。  誰もいない。おかしい。どうして僕たち二人だけしかいないんだ。 「エリカ、大丈夫」  僕はもう一度声をかけた。  すると、エリカはゆっくりと体を起こして、顔を上げた。 「大丈夫」  と言って。  そして、エリカの目から涙が流れた。  僕はびっくりして、さすっていた手を離した。 「エリカ。どうして泣いてるの? 痛いの?」 「ううん」  エリカは腕をごしごしして涙を拭いた。 「温かかったの」  と、エリカは言った。 「……何が」 「手が」  そしてエリカは鏡を見つめて、 「母さん」  とだけ、言った。  僕の方など気にも止めずに。  僕はその時こそ我慢ならなくなって、 「もう、行こう」  と、エリカの手を引き、立ち上がらせた。そしてぐいぐいとほとんどエリカを引っ張りながら、水晶宮を後にした。  何でこんな気持ちになるんだ。
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