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2日常生活
さて、最初にZコースの朝を見てみる。
「お、晋作早えな。」
「まあな、朝練サボってっからよ。」
朝のまだ早い校門開門時間直後の教室は人気がない。
涼し気な雰囲気を醸し出す男と髪を茶髪にしたのか汗で脱色したのか知らないがやんちゃな雰囲気の男が窓に寄りかかっていた。
絵になる様子を後輩たちがこっそり写真を取っていることにも気づかないくらい話し込んでいた二人の間に、いましがたやってきた男がやんちゃな方に話しかけた。
「程々にな。」
「わかってる、九一、今日の幾何やってきたか?」
九一、と呼ばれた涼し気な雰囲気の男はコテンと首を横に倒す。
「だよな。」
「九一らしい。まあ、土方だろ、かわせるって。」
「松助。怒らせるのは任せてもいいか。」
松助、と呼ばれた男は笑って拳を九一の方に突き出した。
九一も微笑んで拳をぶつけた。
すっかり蚊帳の外の晋作はコンビニで買ったであろう紙パックのオレンジジュースを下品な音を立てて飲みほした。
「・・・。」
そんな三人を後目に、音も立てずに教室に入ってくる男が二名。
久坂玄瑞と、吉田稔麿だった。
二人は静かに竹刀をバッグから取り出し、女子のいない教室で道着に着替える。
「なあ、九一もあいつらのこと見習ったら?」
松助が制服を着崩し、外したネクタイをいじりながら九一に聞く。晋作に聞かないのは、諦めからだろうか。
「・・・、嫌だ・・・。」
はあ、と松助は心の中でため息をついた。
ここで行けと催促するととんだ目に遭う。学習能力が人並みある松助は黙ってスマホをいじった。
つまり黙認である。
「・・・、九一、曲がりなりにも会計でしょう。行ったらどうですか。」
いや、黙認しないやつ一名。久坂玄瑞。
「あーあ、せっかく沖田を打ち負かそうとしたのに残念。九一はまた馬鹿にされるね。」
ほっとかない、空気読めない、喧嘩を売るの三拍子揃えてしまったやつ、一名追加。吉田稔麿。
ムンクの叫びの気分がわかってしまう松助。
不敵に笑う稔麿。
この状況を楽しむ玄瑞。
そしてやっぱり蚊帳の外の晋作。
永遠とも思えた時間を破ったのは、
「・・・沖田?」
九一だった。
「そう。沖田が決闘を申し込んできてね。」
「懲りない子ですね。」
「受けて立とう。」
真面目で無気力で単純な不思議ワールドの住人、それが入江九一だった。
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