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こっちも忘れるなと、言うように翠は紅葉に向かって刀を振りかざす。  炎と水。まるで火ノ神と水神が共闘をしているかのように爆煙と水飛沫が翠達三人を包み視界を奪っていく。 「紅葉ぉおっ!」  あの娘に呼ばれる己の名前につい反応してしまうのは何故だろうか。      その名で呼ぶな。    その名で呼んでいいのは一人だけだ。  ---「名前っつーのは親が勝手に付けた呼び方っつーだけだ」  子供の頃、付けてもらった名前が嫌で仕方なくても親がくれたからとその名前を一生使わなくてはならない事に不服だった紅葉が水神から言われた事を思い出す。 「女みたいな名前で皆からからかわれるから嫌だ」 「それ、俺に対して言ってんのか?」  名前について紅葉と同じ境遇の水神が煙管を燻らせながら笑う。 「·····お前が即位する時に四神の登録票に呼び方を変換させりゃあいいじゃねぇか」  紅葉の文字だと幾つか呼び方がある。  変えても文字が同じなら元老のジジイ共も分からないだろうと水神はまるで悪戯を企むかのような笑みを浮かべていた。 「まぁ、水神様の真名だと変換しても微妙だよね。--とか流石に可愛いすぎ」 「おい、斬火。北はどんな教育をしたらこんなガキに成長するんだァ?」 当時の護衛だった斬火に水神が苦情を入れたのは言うまでもない。 名前を己で付けられたらどれだけ良かったかと、二人でよく言っていた。 それでも呼び方を変えられただけお前はマシだと言われた記憶は今も鮮明に覚えている。 「即位させたい子供がいるなら自分の好きな名前を授けた方がその子供の為かもなァ」 だ、なんて冗談だったのか本気だったのかなんて今ではもう分からない。 ただ、己の娘は自分だけの名前を求めていたみたいだ。
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