君の一生のお願い

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 それからあと何回「一生のお願い」あったんだっけか。山道を登りながら、考えた。  中学までは何回もあったけど、高校行ってからは、さすがになくなったんだよな。「一生のお願い」なんて言わなくても、僕は聞いてやってたし。  あ、あったなぁ。「一生のお願い」、一度だけ。 「駅まで自転車乗せて」  って、言われたんだ。高校入ってすぐくらいの時。  だから後ろに乗せて家まで送った。  つばさの頭か、肩か、それか胸かが背中に当たって、めっちゃドキドキして、何の話題も思いつかずにひたすらペダルをこいでいた。夕日は一直線に地平線に落ちていった。  駅に着いたら、 「ありがと〜」  つばさはサラッとそう言って、ダッシュで改札をくぐっていったんだ。  つばさの後ろ姿。空には輝き出した月。  それが、多分最後の「一生のお願い」だったはずだ。今回をのぞいては。  自転車に二人乗りした日から少しして、つばさはこの町を出ていったから。  今回の「一生のお願い」は、「若葉山に登って、写真送って」というものだった。  突然の連絡、突然の「一生のお願い」。 「何で?」  と聞くと、 「急に思いついたから」  と言う。
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