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宙泳ぐゼリーフィッシュ
海中から飛び出たクラゲは
青い空へと舞い上がる
風に逆らって泳ぐように
全身を酷使しながら
何のために生まれてきたの
クラゲは懸命に
あの日もらったときめきを探す
光の方へ 光のある方へ
本当の自分はこの姿じゃない
もっと華やかなものだった
いつの間にか落ちぶれて
名もなきクラゲは空をいく
そのさなか
壊れそうな気持ちを抱えながら
祈りつづけた
あの人ともう一度
出会う奇跡をボクにください
透明な体は色を帯びていき
ほのかな桃色に発光する
光を感じていた
あの人がいる方向へ進んだ
ふわりふわり
ゆっくりふわふわ
宙泳ぐゼリーフィッシュ
温かな光の波動を
胸のアンテナが受信する
優しさに満ち溢れた世界
あの人と手を取り合い笑う場所
ああ、ボクは
クラゲは帰り着く
ずっと理想郷だった居場所へと
全身から強い光が放たれ
少女の姿となって
抱きしめてくれる人の胸に
飛び込んでいく
悩みも憂いもない
幸せだけを噛み締めた魂
何のために生まれてきたの
それは
ただあなたに逢うために!
その日
クラゲは浜に打ち上げられた
ほのかな桃色に光ったまま
とても幸せそうにやつれて
その体はすでに果て
心は遥かへと飛んでいた
哀れとするか夢想と呼ぶか
クラゲにとっては
確かに
祝福を与えられた最期だった
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