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第1話 傷心男とウリ専ボーイ(1)
「ごめんね、隆之くん。君のことは今も好きだよ。でも――」
その日、及川隆之は十年ほど付き合った彼女に別れ話を告げられた。初恋で高校生のときから付き合っていた相手だった。
学生の頃は互いに好き同士でいればよかったし、ただ楽しく過ごせればよかった。しかし年を経ると、将来像だとか価値観の違いがあることに気づかされて、次第にすれ違いが多くなるものだ。
それを認め合ったうえで――と思っていたのだが、そういった甘い考えは自分だけだったらしい。
(『今も好きだよ』なんて、なかなか酷なことを言われたもんだ……)
いつから心が離れていたのだろう。
子供がほしいからそろそろ身を固めたい、そう言ったのは向こうだった。
一方、隆之は結婚なんてまだ先のことだと思っていたし、家庭を築く幸せな将来だって想像していたものの、今の自分にきちんと父親としての責任を負えるのだろうかという不安があった。だからつい、決心がつくまでに時間が掛かってしまったのだ。
そして、その頃には何もかも遅かった。気がつけば数か月が経ち、年度も変わって互いに社会人六年目――二十七、いや二十八歳。友人も続々と結婚し始めている頃合いだった。
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