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互いに弱くて臆病で、ときに立ち止まることや逃げてしまうこともあった。過去のしがらみだって、立場や性的指向の壁だってあった。
――それでも手を精一杯掴んでくれて、一生かけて大切にすると誓ってくれた人。
数ある未来から自分を選んでくれた彼のことを、夏樹も心から大切にしたいと思う。結婚したり、子供をつくったり。そういった幸せの形ではないけれど、この二人だからこそ得られる幸せだってたくさんある。隆之がそう信じさせてくれたのだ。
だから、これから先に何が待ち受けているとしても、この手を離すことだけはないだろう。夏樹は繋いだ手に力を込め、満面の笑みを浮かべた。
そんな夏樹のことを愛しげに見やり、隆之もまた優しく握り返してくる。そうして二人の姿は雑踏の中に紛れていった。
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