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番外編 付き合いたての二人
時は少し遡って、夏樹と恋人同士になって間もなくの夜。スマートフォンを片手に、隆之は考えを巡らせていた。
(絵文字くらい付けた方がいいんだろうか。若い子が相手だし、愛想がないと思われるのもな……)
スマートフォンの画面に表示されているのは、メッセージアプリだった。
つい先日、夏樹と連絡先を交換したまではいい。こうして個人的なやり取りができるのは純粋に喜ばしいし、年甲斐もなくドキドキとしてしまう。
しかし、問題は送るべきメッセージの内容だ。どうにも自分はこういったものに弱い。以前付き合っていた彼女からも、「表情がわからない」と忠告されたことがあるくらいだ。
隆之は眉間に深い皺を刻む。試しに絵文字の一覧を開いてみるのだが、
「……これは痛いな」思わず呟いてしまう。
相手からしたら、こちらはいい歳したオッサンに違いないのだ。それに、いつだったかワイドショーで見かけたことがある――絵文字や顔文字を乱用したがる、《オジサン構文》とやらを。間違ってもそんなふうには思われたくない。
(普通に自分の言葉で、簡潔に……デートの誘い――いや、まずは今日の出来事でも……)
我ながら情けない話だとは思うが、文章を打っては消してを何度か繰り返す。そうして意を決して送信したのだった。
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