温もり

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「優馬!」 「遅かったね、秀斗(しゅうと)」 「貴方はまず優馬の半径2m以内に入らないでくれますか?」  頭がぼーっとしてて上手く状況が飲み込めない。手足に重りでも付いたみたいに思うように動かない。 「身体起こせる?ゆっくりでいいから」 「ん、だれ?」 「……まだ少し混乱してるね」  そう言って寂しそうな声を聞いてピンと来た。 「あ、……兄さん?」 「はは、そうだよ。初めまして優馬」    今度は嬉しそうに笑う。それを見て俺も嬉しくなった。今まであった不安感とかいっぱい押し寄せて来てたものが一気に晴れたような気分だ。  今初めて会ったのに、この時を待ちわびてたみたいに心が満たされてる。  俺は堪らず兄さんに抱きつく。  兄さんは嫌がることもなく、背中をポンポンしてくれた。なんだか幼い頃に戻った感じだ。 「それで。何してたんでしょうか、理事長?」  その言葉を聞いて、ビクっと身体が跳ねる。  別に怖くて反応したわけじゃないけど、そういえばこの人も居たなって……。 「酷いじゃないか!この父を差し置いてふたりだけの空気感を出すなんて」 「答えてください。貴方父親でしょう」 「だって……可愛かったんだもの!」  ……なんだ?  ……つまり、何? 「……はぁ、つまり優馬が可愛すぎて手が出てしまったと?」 「そうそう。愛しいものに触れたら人間って狂うものだろう?」 「再三言うようですけど、貴方父親でしょう……こういう衝動的なことは控えて下さいっていつも言ってるじゃないですか!」  言葉の節々に反省の色が全くないな?逆にここまで悪気のない人は珍しい気もする。  俺は兄さんが近くにいるおかげで心情的には穏やかだ。が、兄さんが相当呆れている。もしかして日常茶飯事なの?まさかね、母さん居るのに。 「兄さん兄さん、こういう事っていつもなの?」 「うーん、そうだね……家族と一部の人に対してはいつもかな」 「母さんが居るのに?」 「待つんだ優馬。なにか誤解がないか?」 「誤解も何も、誤解を生む行動したの父さんじゃん?」  俺のひと言が相当刺さったみたいで、当の本人は「ぐぅっ!」などと苦しんでいる。相当自業自得では?  まあ少しは自覚があって良かったよ。
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