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「目が、悪いので」
「ふふ、これは遺伝だね」
「え?」
元々視力が弱かった俺は、小学生ら辺から分厚い眼鏡をしている。特に目を酷使していたわけでもないから不思議だとは思っていたけど、まさか遺伝だったとは。
「今はコンタクトをしているが、私も目が相当悪いんだ」
そう言ってあざとく眼を目指さす。
改めて顔をしっかり見ると、目元にシワが少しあれどだいぶ若々しい見た目をしている。母と同じで歳不相応な外見をしていると言える。
「その眼鏡、取って顔をよく見せてくれないかい?」
この部屋に入ってすぐは怖い印象が強かったけれど、今は何というか、慈愛に満ちているというか……とても愛しいものを見る雰囲気を放っていて。
そんな空気感にすっかり絆されてしまった俺は、おずおずとしながらもゆっくり眼鏡を取る。
「──ああ、優馬はやっぱり秀斗と似ているね。ずっと、会いたかった」
「ぁ、」
その瞬間、常磐だとか、今まで母さんとの間にあった波乱だとかどうでも良くなって、俺は遂にこの人を父親と認識した。
「と、父さん……」
「うん。どうしたんだい、私の愛しい優馬」
「俺も……会えて、良かった」
目の前の人は目を見開いて驚いたあと、少し困ったように眉を下げて控え目に笑った。
「はぁ、うちの子が可愛すぎる……もっとその顔よく見せておくれ」
俺よりも一回り大きな手は、俺の頬を優しく覆った。
目の下辺りを確かめるみたいに親指で撫でたあと、耳を揉む。
「くすぐったい……」
目の前がぼやけるためか、だんだんと変な気分になっていく。
今まで感じたことがない、母親の温もりとも違う。なんだか妙にくすぐったい。
ぽかぽかと顔が暑くなってきて、自分でも何が何だか、思考がまとまらないのを感じていた。照れ臭いからかちょっと鼓動が早くなる。……本当に何だこれ、変な気分。
相変わらず父親と思しき顔はぼんやりとしていて、いや、このくらいの距離ならいつもならこんなにボヤけない。
気付いた意識とは裏腹に身体は縛られたように動かない。
近づく顔をぼーっとした表情で見つめる。
「んっ」
……、唇?なんで?
まって、これキスだ!
「んんッ!」
気づいた頃には時すでに遅し。止めようと慌てて口を開いたのがいけなかった。
俺の意思とは無関係に舌が侵入してくる。
「ん、っは…ぁ」
さすが年の功と言うべきか、徐々に抵抗できなくなっていく。辛うじて握っていた手から力が抜ける。
───ナメるなよ。
父のテクニックで砕けた腰になんとか力を入れて、身を乗り出す。
反撃と言わんばかりに舌を絡める。ナメるな、俺だってこのくらい出来る。何も知らずに今日まで暮らしてたわけじゃないぞ!
「!」
笑った、気がした。
「ひっ、ああ!」
「駄目だよ、そんな可愛いことしたら」
「や、め……っ」
今度は耳を舐められる。
この部屋には二人きり。外からの騒音も全くない。先ほどよりも近くにある卑猥な音が、俺の中に満ちる。
ゾクゾクと全身を駆け巡る快感に一瞬堕ちそうになる。でもここで流されたら、良くないことになる…!
「そこっや、やめ、っ」
「ここが弱いんだね?」
「あぅ、ん!」
もうだめかも……と思った時、バン!と大きな音が部屋に響いた。
「何やらかしてくれてんですか、っ父様」
はぁはぁと大袈裟に肩を揺らしながら息をする俺に、そんな言葉が聞こえた。
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