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「あの〜、ところでなんですが……この話、雪園くんに聞かれてもいいんでしょうか?」
それと雪園くんは生徒会長サマの弟ってことでいいんですか。
と聞くのはまあ、部屋に戻った時に根掘り葉掘り聞こう。答えてくれるかはさておき。
俺の話題振りで一気に雪園くんに視線が集中する。当の本人は若干狼狽える素振りを見せる。それもそうである、今まで空気だった人が突然話題の中心になるのだから。
「えと、大丈夫で──」
「いいのいいの、コイツ俺の弟だし」
遮られてる。そしてサラッと後で聞こうと思ってたことの答え言われてる。
家族ゆえの遠慮のなさが、この瞬間では少し逆効果っぽかった。雪園くん、心底嫌そうに顔歪めてる……
うーん、陽気で自由奔放な兄とそれに振り回される真面目な弟、かあ。なんかちょっとこの前読んだもんに似てるな。
などと、物語の主人公ではないサブキャストの設定を思い出して既視感を覚える。兄弟に限らず、仲の良さゆえ感情が噛み合わない様は見ていておもしろ──じゃなく、場が和む。
実際に自分が同じ目に遭うのはごめんだから、外野同士でやっていて欲しい。そして俺はそれを見るモブになるのだ、それが普通だし。
「……俺、口堅いですし。そもそも扉の前に待機させた時点で隠す気なんてありませんでしたよね」
お〜たしかに!この部屋が防音になってないのであれば、初っ端から大暴露大会だった部屋の前に立ってた雪園くんに隠す気なんてなかったわけだ。
まあ、同室なわけだし、カミングアウトが1番今後のためになるか。
「よく分かっているね。優馬を、よろしく頼むよ」
「…………………………、はい」
間ァ長い!!それは失礼じゃないのかなァ、雪園くん!
この間の長さからどれだけ嫌なのか伝わる。
分かる、分かるよ、面倒事に巻き込まれるのは嫌だよな。でも、雪園くんは生徒会長の弟で、俺は常磐の血を持つ者。お互い手遅れである。
……どっちかと言えばこの歳でよろしく頼まれてる俺の方がどうにかした方がいいのか?
「話は終わりました?じゃあ優馬は僕が貰って行くけど良いよね、父様」
「──ああ、そうしなさい。」
とっくに冴えている頭に、兄さんに着いていくよう司令を出す。さっきまであった自室に戻るなんて予定は、この時にはすっかり頭にはなくて。兄さんのひと言で俺は浮き足立っているのである。だって、初めての兄弟水入らずだ。久しぶりなんじゃない、初めてなのだ。それがどれだけのものかなんて他人にわかってたまるか。
勝手に浮かんできた初めましての感情、に勝手に言い訳を並べた。
父さんに会った辺りからどれこれも初めてのものばかりで、胸が緊張にも似たもので高鳴っている。この感情にはどんな名前が付くのか、俺は全く知らない。
でも去り際、父さんの顔が少し物寂しさを帯びていたのが、妙に忘れられない。
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